
おふたりの結婚指輪を作り始めたのは、澄み渡る秋の静かな朝のことだった。
南国にもいよいよ冷たい空気が漂い始めている。
アトリエの窓を開け放つと、流れ込む風が心地よい。
作業をはじめる前に熱いカフェオレを作り、長袖のシャツを羽織り庭先に足を運び、明るい空に浮かぶ月を眺めた。

作業机の前に座ると、心がすっと平らになっていく。
おふたりとは何通ものメールを交わしながら、デザインを作り上げてきた。ビデオ通話でお打ち合わせをしたり、サンプルリングをお作りしたりもした。
これまで一緒に育んできたイメージが、いよいよこれから形になっていく。
いつもあたたかくお付き合いいただき、ありがとう。

おふたりのために配合したプラチナは、驚くほどに硬い。棒状の地金を鉄の芯金に当て、木槌でコンコンと叩きながら、少しずつリングの形へと整えていった。おふたりとともに時を重ねていく結婚指輪なのだ。
くるりと巻いたところで、目指すサイズに合わせ両端を糸鋸で切り落としていく。
しっかりと力を込めながら、手を道具の一つのように動かし続ける。
ガリガリと糸鋸を上下させるたびに、細かな破片が作業台に散っていく。
デスクライトに照らされてきらきらと瞬く、小さなプラチナの輝きがとても綺麗だなと思った。

昼過ぎに作業をひと休みし、海の見える丘まで車を走らせた。細やかな作業が続くので、こうして遠くを眺められるのはとても助かる。
水面に光の絨毯が広がり始めるのは、島に新しい季節が訪れる合図でもある。
12月にはおふたりがアトリエまで指輪を受け取りに来てくれることになっている。
眩しい太陽に包まれる、南国の冬だ。
これからコスモスが咲き、山茶花やツワブキも咲き始めることだろう。
島があたたかな色彩に包まれる大好きな季節を味わいながら、指輪作りをじっくりと進めていきたいと思う。
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