
はるか大陸の方へと過ぎ去った台風の余韻の中で、おふたりの結婚指輪を作っている。
窓の向こうでは、ときおり強い風が吹きつけ、晴れた空から突然の雨が激しく降り注ぐ。
まだまだ暑い日は続いているが、雨が運んでくれる涼しさを感じながら、じっくりとリングの造形作業に取り掛かっていた。
焼き鈍したプラチナを木槌で叩き、少しずつ形を整えていく。
彼のリングを丸くしたあと、バトンを渡すように彼女のリングを丸くする。
コンコンコンと、はるか昔から変わらない手作業の音がアトリエに響いていた。
自然に癒されるのはもちろん、この島には素晴らしい出会いもある。
屋久島が紡いでくれた、おふたりとの結婚指輪作り。
気がつけば、8月も半ばに差し掛かっている。
早く涼しくなってほしいけれど、まだこの熱帯の日々が続いてほしいような気もする。
この一度きりの夏を大切に思いながら。
さて、今日も作っている。

くるりとリング状に整えたプラチナの両端を、ぴたりと合わせる。
ここでは、出来うる限り完璧な、隙間のない接合面をつくっておく。
これは、料理でいうところの下拵えのような工程ではあるが、見えないところを、しっかりと頑張っておく。

雨が上がり、南東の風に乗って足早に流れる雲の隙間から、強い夏の日差しが降り注ぐ。
ただそれだけで、なんだか心が満たされるのはなぜだろう。

両端を繋ぎ合わせるために、酸素トーチの炎を当て、リングの温度を1000度以上まで上げていく。
オレンジから白へと眩しい光を帯びたところで、融点の少し低いプラチナを継ぎ目に流し込んでいくのだが、何度繰り返しても、緊張感のある手作業である。
先ほどまで手で曲げることができたプラチナも、
この工程を経て一つのリングになると、強い力をかけても形を変えないほどの硬さを得る。
まるで手を繋いで、力を合わせるように。
継ぎ目に小さなプラチナのかけらをのせ、さらに熱を加えていく。
十分な熱を保ちながら、同時にリングそのものを溶かしてしまわないように、
慎重に温度のバランスを見極めなくてはならなかった。

また激しい雨が降り始めたのは、ちょうど二つのリングを繋ぎ終えた時のことだった。
爽やかで潔い、真夏の雨だった。
やがて強い風に乗り、雨は斜めに走り始める。
まるでスリリングな映画のワンシーンを見るように、妻と一緒に窓の向こうを眺めている。
少し雨足が弱くなってきたところで、カフェオレをふたつ作り、そのひとつを手にまた作業机に向かう。
そのようにして、熱帯の日々は静かに過ぎてゆくのであった。
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