
春の新しい風が、島に漂っている。
独特の湿度を含んだ、芳醇でやわらかな空気だ。
森をつたい、里に注がれる雪解け水は、目が醒めるほどに冷たい。
植物たちは日ごとに鮮やかな色彩を取り戻していく。
島全体が喜び、歌うような時間を、今年もまた、飽きることなく眺めながら、ここ数日は作業机に向かっていた。
山茶花咲く冬から季節を超えて、指輪作りにご一緒いただき、ありがとうございます。
制作を始める前には、アトリエから森まで出かけ、深い緑の中を流れる滝を訪れた。
水をめぐる、おふたりの結婚指輪づくりを、祝福するようなひとときだったように思う。
体全体をめぐる水の響き。
満ちる余韻とともに。

素材となるプラチナは、2本とも同じ2.3mm幅で揃えた。
それぞれのサイズに合わせて厚みに適切な違いを持たせながら、お揃いのデザインで造形していくことになる。
くるりとリング状に巻いた地金の両端を糸鋸で落とし、断面がぴたりと合わさるように整えた。
その後、酸素トーチの炎でリングを包み、1000度を超える熱の中で、そのわずかな隙間にプラチナを流し入れ、リングを一つにする。
最初は手で曲げられるほどのやわらかさを持つが、
不思議なもので、ひとたび輪になると、プラチナは強固で揺るがない安定感を得る。
森の清流のような柔らかな手触りと、悠久の時の中で根を下ろす木々を思わせる確かな強さのようなものが、プラチナにはあると思う。

2本のリングを完全な円形に整え、表面を目の粗いヤスリでざっと削り落とした。
庭先にリングを持ち出し、そのシルエットを眺めてみる。
削り出し作業のベースとなる、端正なフォルムが整ったように思う。
料理で言えば、ひとまず下拵えが整ったところだ。
夕暮れが近づき、緑がぐっと深く色濃くなってきた。
プラチナは、一日の陽光の余韻を受けとめるように、静かで力強い輝きを放っている。
遠くからは、小さな波音が聞こえてくる。
春のあたたかな一日が、ゆっくりと過ぎていく。
まだ重たく、角ばったプラチナの奥に、わたしたちがともに思い描いてきたリングのシルエットを、静かな気持ちで眺めていた。

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