理想のジュエリーが出来上がるように、何度もやり取りを重ねながらオーダーメイドの作業を続けていると、
ふとした瞬間に、ある種の化学反応のような出来事が訪れることがある。
偶然なのか、あるいは必然なのか。新しいイメージに出会える瞬間だ。
おふたりと紡いできたデザイン作りも、新しい発見に満ちた時間だったように思う。
彼女から初めてメールが届いたのは、春の花々が島を賑やかに彩り始めた4月のことだった。
「菜の花の指輪に一目惚れです。」と彼女が言ってくれた。
さりげなく、可憐に咲く佇まいが彼女の理想で、
その儚い輝きのイメージが、デザイン作りにおけるわたしたちのテーマとなった。
花は、いつもより一回り小さいサイズのものを二つ並べることにした。
そうすることで、結婚指輪としての日常的な使いやすさも高めることができた。
素材は、ピンクゴールドのマット仕上げと、クリアカラーのダイヤモンドの組み合わせを選んだ。
そして、その小さな花とバランスを合わせるために、リングの幅を少しだけ細くし、花との接続部分をより繊細な植物的な造形にデザインすると、
まるで古くから受け継がれてきたアンティークジュエリーのように、普遍的で完成度の高いイメージが浮かび上がった。
出来上がったデザイン画を前に、「これしかない」と強く感じたのを、今でも鮮明に覚えている。
そして、あれから数ヶ月が経ち、島には疑いようのない真夏が訪れた。
力強い南国の日差しが描き出すダイナミックな情景に魅せられながら、
今、そのリングのイメージを、少しずつ実際に形へと変えているところだ。
アトリエでは、作業机の傍にデザイン画を置き、それを見ながらピンクゴールドの花を組み合わせていく。
けれども、実際に作業を進めていくと、思い通りに進まないことに突き当たったりもして、
その都度、ささやかな方向転換をしながら、タッチを重ねていく。
リングの角度や、散りばめるピンクゴールドの粒の大きさを調整しながら、理想の形を追い求める時間は、宝探しのようで楽しい。
作業机に向かうのは、わたし一人ではあるけれど、間違いなく三人で歩んでいる指輪作りだ。
かたちのない力に守られているような心強さを感じながら、日々作業机に向かっている。
作業を始める前には、島の東側にある海まで出かけ、早朝のフレッシュな波に乗ったりもした。
わたしたちのジュエリー作りに、いつも寄り添い、優しく包み込んでくれている屋久島にありがとう。
何十回にも及ぶ細やかな溶接作業を無事に終えることができた。
酸化膜を帯びて黒変したリングを洗浄し、これから紙やすりで丁寧に磨きをかけていく。
花を二つ組み合わせて生まれた初めてのフォルムは、可憐で、思わず目を奪われる。
全体のバランスも端正に整っている。
そして、次はいよいよメンズリングの制作に取り掛かることになる。
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