ひまわりが咲いていた。
海沿いに並ぶ段々畑の片隅で、黄色い光が風に揺られている。
その草むらの中を、夢中になって歩いていた。
涼しさが少しずつ混じり始めた夕暮れ時、散歩に出かけ、夏の花を眺めて一日を終えるつもりだった。
ひまわり畑の向こうに広がる屋久島サウスの山々を眺めながら、この日のジュエリー作りの工程を、ふわりと思い返していた。
ピンクゴールドで小さな花をふたつ作って、いよいよこれから本格的な造形作業を迎えるときの、緊張感が蘇る。
花と組み合わせるリングの素材には、ピンクゴールドの細い線を二本用意した。
その細い線で二個のリングを作り、その後に互いを重ね合わせるように溶接する。
ルーペとピンセットを片手に進める、デリケートで気の抜けない作業だった。
ふたつのリングが重なったあと、一箇所を思い切りよくカットする。
一度形成したものへ、あえてマイナスのベクトルを加えるのは、いつもながら、確かな決意のようなものを必要とすることだった。
そして、そのリングの両端を、植物の茎のようにくるくると巻いていく。
これには実にたくさんの工具を使用した。
タッチを重ねるたび、硬いゴールドが少しずつ有機的な表情を宿していく。
その柔らかな変化を前にすると、あたたかな気持ちに包まれた。
これまでお二人と育んできたイメージが、ようやくここに実を結びつつあるのだ。
そう思うと、今この瞬間がよりいっそう愛おしく、貴重なものに感じられた。
アトリエまでの帰り道には、西の空に沈む太陽をまぶしく眺めた。
夏の、長い昼が終わりを迎えようとしていた。
風に運ばれて体にまとわりつく潮が心地よく、どこか親しみ深く感じられるのも、この季節ならではの繊細な叙情なのかもしれない。
屋久島の季節に包まれ、おふたりとご一緒する指輪作りは、一度しかないのだ。
ああ、もう少し夏が続いてくれるといいなあ。
水平線に沈みゆく太陽が、水面にオレンジ色の煌めく橋を渡していた。
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