島に接近していた台風は、幸いにも上陸することなく、静かなうねりだけを残して東の海へと去っていきました。
いつものビーチで眺めた空は、思わずゾクっとするほどに澄み渡り、秋の到来を感じさせる深く鮮やかな色彩が広がっていました。
こうしてひとつの台風が過ぎるたびに、季節が新しくなっていく。
ダイナミックでありながらも繊細に巡る時の流れを、自分自身がその一部として感じられるのは、島暮らしならではの感覚なのかもしれません。
入道雲からうろこ雲へ。ハイビスカスからサキシマフヨウへ。
刻々と移ろう季節のグラデーションに包まれて、お二人の結婚指輪を作っています。
海で出会う流線や、山々のフォルム、月の満ち欠けも、
すべては、巡りゆく時間が形づくるもののように感じられます。
あるいは、わたしたちが自然の中に日々眺めているものは、
刹那という形式をとった、時間そのものなのかもしれません。
プラチナとピンクゴールドでお仕立てする、おふたりの小さなリングもまた、
巡りゆく時の流れであり、
同時に、今という瞬間でもある。
手の中に生み出していくのは、そのようなフォルムであるように思うのです。
さて、アトリエです。
プラチナとピンクゴールドがリングになりました。
その色彩のコントラストに、しばし魅入りながらも、
これからいよいよ本格的な造形作業に取りかかるところです。
まずはプラチナリングの表面にいくつかの罫書き線を描き、その罫書き線を目印にしながら、向かい合わせになるよう波のような流線をマジックで描きました。
その流線に沿って、地金を削り出していきます。
まずは目の粗い鉄鋼ヤスリを片手に、大きく、力強く。
ラインの際にきちんと収まるよう、注意深くタッチを重ねていきます。
大まかな造形が取れたところで、ヤスリを細かい目のものに持ち替え、また一周。もう一周。
とても地味な繰り返し作業ではあるけれど、タッチを重ねるたびに、少しずつ、わたしたちが思い描いていたフォルムの、小さな兆しのようなものが見え始めてくる。
こうして、冷たくて硬いプラチナに息吹が宿りつつある瞬間を分かち合えるのは、オーダーメイドならではの喜びであるように思います。
夕暮れ時に一息をついて、リングのフォルムを太陽の光の下で眺めました。
リング全体は、丸くて柔らかな曲線で包み込みました。
その中に、“流れ”を表現するラインが巡っています。
一日の終わりを告げる柔らかな光を受けて、リングの表面には濃い影が生まれていました。
この“流れ”を、もっとスムーズに磨き上げていくと、光がより自由に巡りゆくようになるだろう。
リングに宿る、移ろう輝きを思い描くと、なんだか心が躍りました。
ふと見上げると、木々を通り抜けて届いた光が眩しくて、
サキシマフヨウの花びらは、淡いピンク色の透きとおるベールのように見えました。
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