やわらかなスクエアシェイプ
彼のリングは、スクエアシェイプのデザインをベースに作り進めている。
スクエアシェイプというと、たしかにタイトでシャープな印象が先立ってしまうけれど、
その中に、やわらかな手触りを感じていただきたい。
彼女のシャンパンゴールド、彼のプラチナ、二つのリングにつ繋がりを持たせて仕上げていく。
リング幅は2.5mm 。
手にすると、プラチナの程よい重みが伝わってくる。
表面は、気づくか気づかないかほどのほのかな丸みを帯びた曲面に仕上げた。
こうしておくと、リング全体の緊張が和らぎ、光の流れが滑らかになる。
大地から生まれたプラチナの美しさが、いっそう際立つのだ。
そして、体と金属が直接ふれあう部分の造形は、特に大切にしたい。
リングの内側は、ラウンドしたカーブを描くように、思い切りよく削り出した。
シャープに仕上げた側面から、限りなくスムーズに曲面がつながっている。
これから何十年もお使いいただく結婚指輪だ。
時間を重ねるごとに、体の一部になるような感覚をお楽しみいただけると、何よりも嬉しい。
屋久島サウスにスモモの花が咲き始めると、新しい季節がやってきたのだと、胸が高鳴る。
繊細で、力強くて、美しい。
ジュエリー作りの憧れはいつも、いつも島の自然の中にあるような気がする。
さらに圧力を加え、そのアウトラインに緩やかなカーブをもたせたプラチナリング。
その付け心地を確かめながら、細やかな調整を加えていく。
ときおり酸素トーチを使い、炎を当てて真っ赤になるまで温度を上げ、
金属の緊張を解いてから、木槌でコンコン、と叩いてゆく。
試してみると、わたしの人差し指にちょうど合うくらいのサイズだったけど、
プラチナの重さも心地よく、とても親密なつけ心地だった。
そして、またコンコン。
リングに再び緊張を与え、硬くなったところで、形成作業を完了させる。
世の中は日々アップデートを重ねてゆくけれど、季節のように変わらないものもある。
ジュエリー作りにも、昔ながらの手作業のリズムが、今も静かに息づいている。
島のスローな時間の中で、手を動かしていると、
今この瞬間が、とても大切で、愛おしいものに思えてきた。