長く続いたリングの造形作業がひと段落したのは、庭先の光がオレンジ色に染まり始めた夕暮れ時のことだった。
日中の熱気もようやく落ち着き、アトリエには凪のような静けさが広がっている。
暗くなるまでは、あと少し時間がありそうだったので、リングを持ち出し、ハイビスカスの側でゆっくりと完成したフォルムを眺めていた。
彼のリングをそっと薬指につけてみると、あたたかな喜びに包まれた。
2.3mm幅ですっきりと繊細な印象ではあるが、シャンパンゴールドの確かな重みが伝わってくる。
木漏れ日を受け、表面に刻んだラインに沿って、やわらかな陰影が浮かび上がっている。
二本のリングを重ね合わせながら、おふたりとこれまでご一緒してきた指輪作りの日々を、何気なく思い出す。
ありがとう。
ただただ、そのシンプルな言葉だけが心に浮かび上がってくる。
ふと見上げると、空がとても澄み渡っていて、
「これは」とひらめきのような気持ちに駆られ、海に出かけることにした。
サンセットタイムに、なんとか間に合いそうだ。
アトリエから車を10分ほど走らせ、いつものビーチに向かう。
車窓の向こうには、神話の世界に現れそうな雲が、放射状の光をまといながら、わかるかどうかというほどのゆるやかな速さで流れていた。
いつものビーチに到着したとき、時計の針はちょうど6時15分を指していた。
ずいぶん日が短くなってきたけど、ビーチにはまだ夏の香りが漂っていて、海にかかる太陽の煌めきを眺めていると、なんだか胸の奥にぐっと響いてきた。
リズムに乗っていこう。
海や花、そして季節。島に巡る時間を享受しながら作り上げた、おふたりの結婚指輪だ。
そのリズムのようなものを、できるかぎりシンプルなかたちに造形することができたように思う。
おふたりに早く手に取っていただきたいという、はやる気持ちはあるけれど、
それはもう少し先のお楽しみだ。
これからリングの内側に刻印を施し、磨き仕上げをして、いよいよ完成を迎える。
その続きは、別のお話にしよう。
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