漂い始めた秋の気配の中に、まだしっかりと暑さの余韻が残っている。
島の夏は、とても長い。
今日もまた、日差しが強くなりそうだ。
夜明けの空に浮かぶ入道雲を見上げながら、涼しさの残る散歩道をゆっくりと歩いていた。
夜の間には雨が降ったようで、植物たちは無数の雫を抱いていた。
その煌めきを落とさぬよう、息を潜めるようにして見つめる。
木々の合間から差し込み始めた陽光を受け、キラキラとダイヤモンドのように輝く世界に身を置いていると、
「さあ、今日も作っていこうか」と、元気をもらえたような気がした。
2階のアトリエまで上がり、作業机の上を眺めると、昨日の作業を終えたまま、二本のリングが並んでいた。
彼のリングは細部までしっかりと造形されている。
じっくりと確認してみたが、何度見ても、これ以上削り出す必要がないほどに均整が取れているように思われた。
細かい磨き上げの作業は後に回すことにして、この感覚が手の中に残っているうちに、彼女のリングを削り出すことにした。
まず角ばったリングの表面に、極細のマジックで大きなカーブを描いていく。
緩やかな波がリングを巡るように、そして彼のリングと同じリズムを奏でるように、細心の注意を払いながら線を走らせた。
このマジックで描いた線が切削作業のガイドラインになるので、実のところ、とても大切な工程だったりする。
コンピューターを使わず、手の感覚に全てを頼る作業ではあるが、それによって生まれる有機的な手触りを、わたしはとても気に入っている。
夢中になっていたので気づかなかったが、どれくらい時間が経ったのだろう。
リングの表面に斜面が生まれ、しっかりとしたラインが現れるまで、休むことなく手を動かし続けた。
ここでようやく作業を止めて、一呼吸。
リングを庭先に持ち出し、太陽の光の下でそのシルエットをチェックすることにした。
彼女のリングは、幅をできるだけコンパクトにし、繊細に仕立てている。
斜面の角度が急になりすぎないよう、丸みをつけて削り出したフォルムは、これまで彼女とテストを重ね、共に抱いてきたイメージによるものだ。
思えば、この夏を丸ごとおふたりと歩んできた指輪作りだ。
作業は終盤に差し掛かり、秋の気配も漂いつつあるけれど、大切に、じっくりと進めていこう。
ハイビスカスの花びらを透かして届く西陽がリングに落ち、シャンパンゴールドが静かに煌めいていた。
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