屋久島サウスでは、ほとんど雲さえも見えない晴天の日が続いている。
雨の少ない日々は、日中外に出ることができないくらいに暑い。
今年は過去最高に暑いのかも、というフレーズは、もしかすると毎年繰り返されているのかもしれないけれど。
それでも、夏には夏にしか見ることのできない色があるので、興味は尽きない。
夕暮れ時には作業の手を止めて、海を望む坂道まで車を走らせた。
車のドアを開けると虫たちの合掌に包まれる。
視界には水色のグラデーションが広がっていた。
一年ぶりに出会う、夏特有の少しメランコリックで、夢のような情景だった。
金属なら、ピンクゴールドの色彩も艶やかで美しい。
アトリエではピンクゴールドの薄い板を切り抜いて、小さな花のパーツを作っている。
大きさ5mmほどの小さな花を、たくさん、形に変化を持たせながら、ただ黙々と。
机に向かい、小さなものと向き合うのは、まるで写経のような静かな作業で、時間の流れがとてもゆっくりに感じられるけれど、案外と好き。心が静かになっていく。
料理人である彼もきっとこのフィーリングを知っているに違いない、
ふと島の北部に暮らすお二人のことを思ったり。
「結婚指輪を作って欲しいのです」と同じ島に暮らすお二人にお電話をいただいたのは、島がそろそろ観光シーズン入りをする、冬の終わりの頃だった。
「そろそろ忙しくなりますか?」と交わす言葉も屋久島ならではかもしれない。
同じ島のリズムの中で暮らすお二人と、同じ季節を分かち合いながら、これから数ヶ月一緒に指輪作りができるのが嬉しかった。
あれから季節は巡り、今、夏の真っ只中にある。
お二人と蒔いた種が発芽して、花が開き始めたように、ピンクゴールドの小さは花が少しずつ出来上がってきている。
イメージを育み、形を生み出しているようで、作ることは楽しい。
一度だけの夏を、喜びを分かち合いましょう。
もう空が暗くなり始めた頃、一つの花をようやくきれいに整えることができた。それを一つピンセットで挟み、緑の中で愛おしく眺めていた。