アトリエから出たときは、外はまだ真っ暗だった。
見上げると満天の星が空を尽くし、今日が晴天であることを告げていた。
雨や曇天の多い屋久島でもときおり見ることができる美しいシーンだ。
アトリエのある屋久島サウスから車を1時間ほど走らせてノースの海までやってきた。
この日はここで朝一番の波に乗りたかったからだ。
腕時計を見ると時刻は午前5:00を少し過ぎたところだったけれど、もう十分に明るくなっている。
普段は誰もいない場所に、仲間が少しずつ集まってきた。
夜明け前のブルーから太陽が登り始めてオレンジへと、移ろいゆくのは15分くらいのことだろうか。
1日の始まりを告げるグラデーションを眺めるのが好きだ。
堤防の向こうからは波の音が聞こえてくる。
海鳥たちも飛び交い始めている。
この海に入ってから今日のジュエリー作りを始めることにしよう。
今、ここにあることに、ただただ感謝の気持ちでいっぱいになる。
シンプルな日々ではあるけれど、ずっと思いこがれてきた暮らしなのかもしれない。
海や森、植物に憧れる気持ちはずっと変わらない。
コスモスとシダの葉をモチーフにしてお二人の結婚指輪を作っている。
お二人がアトリエに来てくれてから、もうすぐで1か月になるはずだから、
リズムの良いオーダーメイドだと思う。
アトリエで一緒に過ごした時間の、鮮明な印象を残したままで作業机に向かうことができる。
お二人のリングには、まるでこれからずっと一緒であることを約束した小さな印のように、同じ石をセットすることにした。
大きさを違えて一つずつ。
イエローサファイアをセットする前に、その台座を彼のリングに施す作業が、造形作業のラストタッチとなる。
シダの葉に宿るしずくをイメージしたプラチナの丸い粒は、シンプルに一つだけを組み合わせることにした。
いつも庭先で眺めているリズムやリズムに習って、その小さな粒を配置する。
作業も終盤に差し掛かり、接続部分が多くなっているので、炎の温度で他の部分に影響が出ないように、ピンポイントで接続部分に火を入れなければならない
いつまで経ってもドキドキする作業である。
まずはリング全体を均一を程よく熱して置いたところで、炎の大きさを絞って温度を上昇させる、そして思い切りよくプラチナの粒の根本の温度を約850度まで上昇させた。
作業はうまく完了した。良いバランスに仕上げることができたように思う。
ほっと一息をついてから、全体を磨き上げて、嬉しくなって庭にリングを持ち出して眺めていたワンシーン。
降り注ぐ夕暮れ時の光をリングが受けて、むっちゃ綺麗だった。
緑の中で優しい輝きを放ち、まるで屋久島の一部であるように見えた。
思えば、島に暮らして、お二人と出会って、こうして結婚指輪を作っているのは奇跡のようで、
今までの全てが関わり合い、繋がって今があるのだなあ、としみじみ。
そう考えると、この瞬間もまたとても大切なものに感じられる。
いよいよ作業の工程もイエローサファイアのセッティングを残すのみとなった。
これから少しだけ時間を置いて、客観的な視点を持って最後のタッチを施したいと思う。
このリングが出来上がって、そしてお二人の暮らしは新しい時間を刻み続けていくだろう。
お二人と、このオーダーメイドにまつわる近い未来を思い描いてあたたかな気持ちに包まれている。
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