散歩道には蓮華が咲いていたし、朝露も春特有の潤しさを纏い始めている。窓を開くとふわりと緩んだ空気がアトリエに漂ってきて心地よい。
それにしても南の島ならではの早い春である。
宝石を纏っているみたいにキラキラだった朝に癒されて一日の作業を始めることにした。
屋久島から12キロ先の島に暮らすお二人と同じ季節を分かち合いながら結婚指輪を作っている。
音、手触り、ゆらめき。島の暮らしでいつもどこかに感じている水に憧れて。
さて、アトリエです。
お二人が選んでくれたのはぴたりとお揃いのデザインである。
すっきりと細身のプラチナリング。ゆらめきの装飾。
シンプルであるが故に、そこには印象的な雰囲気が生まれる可能性が大きくなる。
手作業の確かさがジュエリーに個性のようなものを与えるのだと思う。
くるりと巻いたプラチナはお二人のサイズに合わせてその両端をカットした。
今回の指輪作りのために配合をしたプラチナはとても硬い。
リングの両端をぴたりと合わせて高温の炎に包んで繋ぎ合わせる。
炎を扱う大胆さはもちろん必要ではあるが、なにしろとても小さく繊細なリングである。
足元を確かめながら夜道を歩くように、注意深くタッチを進めなくてはならない。
作業の合間には目を休めるために遠い空を眺めた。
何もないのがここでの暮らしの素晴らしさでもあるように思う。
2本のプラチナリングは鉄鋼ヤスリを使って表面にある荒をざっと削り落として、一日の終わりには端正なフォルムに整えることができた。
その佇まいを作業台の上に眺める。
まだまだ土台ではあるけれど、その内側にはこれから造形するべき姿を見ることができた。
わたしたちが一緒に作り上げたイメージが形になるつつあることが実感できて喜びがこみあがてきた。
思い出してみると小さな作業机の上では実に色々な出来事が起こっていて、その度に一つ一つハードルを越えていくような一日ではあったけど、金属を扱う手作業はまるで生き物と対峙しているようで面白い。
作業はとてもスムーズに流れている。
指輪作りはもう中盤といったところだ。
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