リングの表面に金槌で装飾を施す大切な日。
ずっと雨が降り続いていたのもあって、アトリエに篭っていつかの海の情景に思いを巡らせながら。
海の優しさも、決して及ぶことのできないその圧倒的さも好きだ。
リングは鉄の芯金に当てておいて、その表面を金槌で打ち付けていく。
もうこれ以上出せないくらいのありったけの力を込めて、一打。
プラチナがスタンプのように小さな平面をつくる。
そしてその小さな平面に重ね合わせるように、ピンポイントで狙いをつけてまた次の一打を振り放つ。
時計の12時の位置、その次は6時の位置、くるりと裏返して、出来るだけ均一な力を与えていく。
平らだったプラチナリングにはいくつもの角度を持った小さな面が与えられ、万華鏡のように立体的な輝きを放ち始めている。
プラチナはとてもしなやかな金属である。
力を入れて叩くのに合わせてリングのサイズも少しずつ大きくなっていく。
叩き模様がリングの表面を埋め尽くす時に、彼女の9号サイズよりも少しだけ小さいところにぴたりと着地できるようにうまく呼吸を合わせることが、この作業で一番のチャレンジだったように思う。
とても濃密ではあったけれど、短い時間だったのかもしれない。
無事に一連のタッチを終えることができて、アウトラインに生じた歪みを側面からハンマーで叩いて真っ直ぐに戻しているところだ。
水はその形を止めることがないのが美しいところではあるけれど、
その一瞬をリングに留めることができると嬉しい。
小さな島で海ととても近く暮らしているお二人だ。
きっとどんな時も水の音をどこかに聞いているに違いない。
海を眺めて大切な出来事を思い出すように、
お二人のこれまでと、これからが印にようにリングにも刻まれていく、
あたたかで希望に溢れる未来を思い描いている。
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