いつものビーチは、アトリエから車で15分ほどの距離にある。
作業がひと段落した夕暮れ時に訪れるのが多いのだけど、昼と夜の境界に身を置き、その静かで力に満ちた情景を眺めるのが好きだ。
海や月にはとても正確なリズムがあって、それを明瞭に感じることができるのも安心なのかもしれない。
包まれる波音。重なり合うリズム。潮風の香り。
海とともにある暮らしは、お二人とわたしとで共感できる時間で、もちろん指輪作りに欠かせない大切なエッセンスになっている。
プラチナとイエローゴールドのリングは、表面を丸く造形をしたところで、そのアウトラインに更なるタッチを加えることにした。
その前に、リングを炎の中に包み込み、金属の緊張を解くように柔らかくしておいた。
ここから、お二人の指輪作りの工程は、より深い造形作業へと入り込んでいくことになる。
一旦端正なフォルムに作り上げたリングに、別の力を加えるのはとても勇気が必要なことではあるけれど、時にはそのような思い切りの良さが、モノ作りにおいて大切なファクターとなるように思う。
リングは曲面を持つ鉄の枠に当て、出来るだけ少ないタッチで確実な効果を得るよう、適切な力をしっかりとかけながら圧力を与えていく。
いつまで経っても背筋が伸びる緊張感である。
けれども、その深い集中の先に、柔らかで安らかなフォルムが生まれるのだから、なんとも不思議なものだ。
本当に美味しいものを食べている時の幸福感のように、それをどうやって作ったか、とか全く関係なく思えてしまうような、細やかな配慮や所作が、職人に必要なこだわりであるような気がする。
実のところ、それは愛情に尽きるのではないだろうか。
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