西の空に虹がかかったのは、ずいぶん久しぶりのことだった。
屋久島サウスでは、相変わらず「雨ときどき晴れ」の日が続いていて、
スコールが通り過ぎたあと、澄み渡る空や、植物に宿る雫のきらめきを眺めるのが、日々の楽しみになっている。
ほんのひとときだったけど、それでも虹に出会うとやっぱり嬉しくて、誰かに伝えたくなってしまう。
海の向こうに暮らすお二人は、どんな夏を過ごしているのだろうか。
春の始まり。
お二人がご友人と一緒に、アトリエまで来てくれました。
海と波音と。
お二人の暮らしの中にある大切な情景をモチーフにした結婚指輪づくり。
不思議なもので、この小さな島に暮らすようになってから、
かえって距離を超えた出会いに恵まれることが多くなった気がする。
それは、海だったり、森だったり、植物も。
大切な何かを分かち合う、やわらかな繋がりなのかもしれない。
屋久島が紡いでくれた、ご縁にありがとう。
目には見えない、けれどもたしかにここにある磁力のようなものを感じながら。
くるりとリング状になったシャンパンゴールドとプラチナ。
表には現れない、とてもシックな作業が続いたけれど、端正なフォルムに仕上がったように思う。
料理でもそうだけど、なんと言っても、下ごしらえが一番大切なところなのである。
ここからは、心静かに、シンプルにいこう。
鉄鋼ヤスリを片手に、プラチナの表面を削り出していく。
リングの表面には、あらかじめ、波模様のガイドラインを描いておき、そのラインを超えないように、注意深くタッチを重ねていく。
リングに波のリズムを与えるためには、そこに思い切りのよい大胆さも必要になってくる。
一つの波が終わると、次の波を削り出し、また隣の波を削る。
粗い目のヤスリから、細かい目のものへと変えて、もう一周。
そのような単純な作業を何度も繰り返しながら、手の中で少しずつ、思い描くフォルムに近づけていった。
同じリズムを繰り返す模様ではあるけれど、
やがて、そこに、ごく小さな揺らぎのようなものが生まれてくる。
その有機的な揺らぎに、どうしようもなく心惹かれてしまうのは、均整と変化に富んだ自然と対峙する時の感覚に、どこか似ているのかもしれない。
海から眺めた、いつかの屋久島。
暑くて、風がとても強い日だった。
海と島に包まれながら、同時にその一部でもあったことを思い出す。
かたちにしたかったのは、このリズムなのだと思った。