6月の雨に包まれて、お二人の結婚指輪を作り始めた。
ふと手を止めて我に帰ると、ざあざあと激しく重たい音に包まれていることに気がつく。そしてまたいつの間にかその音に溶け込んで境目がわからなくなる。
2020年、梅雨の真っ只中にいる。屋久島サウスのアトリエです。
いよいよ最初の第一歩を踏み出すことになり、指輪作りの工程をイメージしながらホワイトゴールドとプラチナを眺めている。お二人と数ヶ月かけて一緒に作ったデザインを置き換えた数字を並べて。
ホワイトゴールドとプラチナの輝きが共鳴して近しい色調に感じられますが、二つの金属は組成が全く異なる素材なのです。
作業の温度や削り出しの力の加え具合、磨き方、、その工程の微妙な違いがあって、そこから生まれる表情や質感にもそれぞれの個性がある。
お二人のデザインと組み合わさると一層オリジナリティーを感じられるのが面白い。
一つの個性でもあり、新しい息吹のようでもある造形と、じっくりと触れ合いながら指輪を作っていく。
ホワイトゴールドはダークトーンの中にふわりと明るいゴールドの陽気さを抱いている印象だろうか。
バーナーで使う火も800度前後と比較的穏やか。
一方プラチナは1500度前後の作業温度で、酸素トーチを使って力強く工程を進めていく。
こんなにも真っ赤になっても溶けないプラチナ。
どんなときもポーカーフェイスの質感にはシャープでクリアな輝きを纏っている。
絶妙な配合から生まれた硬さも色合いも、生み出すためのトライアンドエラーが続いてきた長い歴史の延長線でこの指輪を作っていると思うと、果てしない気持ちに包まれる。
コンコンと木槌でリングを叩く。ゆっくりとした手作業の時間が流れている。ずっと昔から変わらない手作業の時間だ。心がシンプルに、平らになっていく。
雨上がり。
ホワイトゴールドとプラチナは造形を重ねるごとに、デザインと相まって、それぞれの素材の個性を帯びてくる。
個性が際立つほどに、お互いが近しくなるものだなあと不思議に思う。
二つで一つみたいにマッチしている。
ここから少しずつ、それぞれにデザインを加えていくけれど、この親しみ深いフィーリングを大切に作業を進めていこう。