ずいぶんと遅くなった朝が屋久島サウスに冬の訪れを告げてる。
まだ空は薄暗く昨日の余韻を残していたけれど、ここぞとばかりに作業机に向かってお二人の結婚指輪作りを始めることにした。
ひんやりと静かな時間が好きで、作業に深く潜ることができるからだ。
プラチナの手触りが心地よい。
同じシダの葉のモチーフを分かち合うように、それぞれのスタイルでお二人の結婚指輪を作っている。
彼女のリングはシダの葉をそのままにかたどった。
屋久島に暮らし始めたのはもう15年ほど前になるだろうか。
同じ緑色ではあるけれど、全てが異なる色調のグラデーションに島全体が包まれている情景に感動をしたのをよく覚えている。
その中でシダの葉が印象的だったのは何故だろう。
大きなシダ、小さなシダ、森の中にも里の暮らしの中にも、いつもシダの葉はそこに佇んでいた。
大地にしっかりと根付いていながら、ふわりと羽のように軽やかな佇まいは、あるいは屋久島に暮らして感じ初めていた自由の象徴のようなものだったのかもしれない。
今となってはそう思うのだけれども、あの頃はそのシダの葉をモチーフにしてジュエリーを作り始めたことは、とても自然なことのようだったようにも思う。
さて、今日も軽やかに、力強く。
プラチナで作った葉には茎のように細くしたプラチナのリングを組み合わせていく。
そういえば、この組み合わせは初めてだったような。
これまではゴールドとプラチナのコンビでつくることが多かったシダの指輪だったけれど、
彼女の体調に寄り添ってくれる素材を、と考えて彼女がリクエストしてくれたのがプラチナにプラチナを合わせようとしたきっかけだった。
暮らしに寄り添ったりバイオリズムに合わせたり、デザインに可能性や広がりを与えてくれるのはいつも“必要なこと”であるなあ、とつくづく思う。
そうして生まれるジュエリーは、きっとお二人の時間そのもののようなものだろう。
今ここに、新しい息吹が生まれようとしている。
その感動を前にできるのはとても幸せなことだと思う。
ぴたり、合わさって、嬉し。
組み合わせたプラチナの葉っぱと茎は炎の中に包み込んで一つにする。
大地から生まれた金属だけで全ての工程を仕上げていくことができるのはジュエリー作りの素敵なところだと思う。
あれやこれやで作業がひと段落したのはもう夕暮れ時になった頃だった。
庭先に出て深呼吸をする。
雲の合間からほんのりと夕暮れ時の光が山茶花に降り注いでいた。
冬の柔らかな光だった。
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