ようやく明るみ始めた朝霧の向こうに、半周の弧を描く虹が架かっていた。
もわりとした湿度の中には、かすかな秋の香りが漂っている。
今日も暑い日になるだろう。
お二人が島を訪れる頃には、季節はさらに深まりを見せているだろう。
さあ、いよいよ、作業を始める日がやってきた。
作業机に向かい、まず最初に取り掛かったのは、シルバーを溶かし、リングの造形に適した素材を作る作業だった。
ガスバーナーの炎を900度以上まで上昇させ、シルバーが液体状になったところで、鉄製の枠に流し入れる。
とてもシンプルな工程ではあるけれど、適切な温度とタイミングが大切になってくる。
これから先の工程を左右する大切なステップだ。
心を落ち着けながら、そして大胆に炎を扱っていく。
冷やしたシルバーは、長い四角柱の形状に整うまで、力をかけて金槌で叩いた。
コンコンと、アトリエに金属の高音が響き渡る。
きっとこの音は、はるか昔に職人たちが工房で響かせていた音と同じなのだろう。
この時間感覚が、わたしは好きなのかもしれない。
時代を超えて変わらない、スローな手作業である。
外には薄明るい光が差し込み始めている。
モノづくりの、ゆっくりと進む日々は、あるいは植物の時間と近しいのかもしれない。
じっくりと、確実に、一歩ずつタッチを進めていかなくてはならない。
庭先のハイビスカスを眺めながら、静かに胸を高鳴らせていた。
オーダーメイドのお問い合わせはこちらまで
hp@kei-jewellery.com
tel: 0997-47-3547