
鉄鋼ヤスリでの削りだし作業を終えたあとは、サンドペーパーに持ち替え、手の中で大切に育むように磨き上げていく。
ここまでくると、手の感覚だけが頼りになってくる。
できる限り、リングと自分自身の距離を近くしていたい。
心を澄ませ、タッチを重ねていくと、金属の響きのようなものがダイレクトに伝わってくる。
リングの表面は、やわらかにラウンドを描くフォルムだ。
全体にはしっかりとした厚みを残しておく。
アウトドアでかなりハードなアクティビティを楽しまれるおふたりなので、強度を高く仕上げていきたい。
結婚指輪を長く作っていて思うのは、やはりメンテナンス性の大切さに尽きるような気がする。
この先、長くお使いいただくリングだから、後から容易に手を加えやすいよう、できるだけシンプルで、真っ白な造形に仕上げておきたい。
使ううちに小さなキズがつき、それを何年かに一度磨き直して、また身につける。
そのようなリズムを繰り返しながら、リングはおふたりの時間に育まれながら、少しずつ味わいを増していく。
あるいは、一つだけのデザインとは、この先のお二人の未来の中で、初めて完成していくものなのかもしれない。

リングの中に生まれた、ひと筋の流れのようなものを、ルーペ越しに確かめておく。
その流れがどこまでもスムーズに巡るように、細やかなタッチアップを重ねた。
彼のリングを整え終えると、それをそばに置いて眺めながら、彼女のリングをゆっくりと磨き上げた。
片方の側面からイエローゴールドが始まり、もう片方に向かうにつれて、グラデーションを描くようにプラチナへと変わってゆく。
わたしたちがともに思い描いてきた色彩の巡りが、いまここにある。
小さなリングが、登り始めた太陽のように、明るい光で励ましてくれる。

指輪を作り進めていた日々には、毎朝のように海の方角から登る太陽を眺めた。
庭の生垣では、山茶花が蕾から花へと、美しい変化を遂げている。
作業机に向かっているといつも、その光と始まりのイメージに、わたし自身も癒されていたように思う。
もう少しでリングは完成することになるのだけれど、実のところ、それが新しい時間の始まりだったりして、きっとここから、癒しがじんわりと広がっていくのだろう。
朝の木漏れ日の中にいるような、あたたかくて眩い希望を抱きながら。

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