夜明けが、ずいぶんと早くなってきた。
海辺で迎える早朝の時間には、まだ少し寒さが残り、岸から海へと吹き込む風も冷たく感じられる。
フリースをしっかりと着込み、水面に柔らかなオレンジ色のラインを描く陽光の温もりを、ただありがたく眺めていた。
深いブルーから、眩しい光へと移りゆく空を眺めていると、「さあ、今日を始めよう!」と、島に鼓舞されるように、静かな力が湧いてくる。
これまでの制作がひと段落し、新たな制作を始める前のひとときを、海で迎えるのが好きだ。
いよいよ、お二人の結婚指輪作りが始まる。
ご家族がアトリエを訪れてくれたのは、島に寒波が訪れていた年明けの日のことだった。
とても寒い一日だったけれど、赤ちゃんを交互に抱きながらサンプルリングを囲んだ、あのあたたかな時間のことは、今でも鮮やかな記憶として心に残っている。
どきりとするほど空の澄み渡った、冬の日のことだった。
あれから冬を丸ごと一つ越えて、島は新緑の季節を迎えている。
山々には生命力に満ちた緑が宿り、深く、力強い癒しをもたらしてくれる。
庭先では、藤の花に月見草、ハイビスカスも咲き始めた。
アトリエでは、お二人のために配合をしたプラチナを作業机の上に用意した。
そして、その固いプラチナを、これからくるりとリング状に丸めていく。
時折、酸素トーチの炎で焼きなましながら、少しずつ、美しい円を描くように。少しずつ。
そして、目当てのサイズを測り、リング両端をカットして、繋ぎ合わせる。
言葉にすると、とてもシンプルな作業に思えるが、正確なタッチが仕上がりの美しさを左右する、大切な工程だ。
1000度を超える温度下での手作業なので、注意深くならなくてはならない。
炎の中で、リングはオレンジ色の強い輝きを放つ。
集中が深まり、心が平になっていく。
リングの繋ぎ目に、少しだけ融点の低いプラチナ片をそっと置き、さらに温度を上昇させながら、そのプラチナ片を溶かして流し込む。
彼のリングに続いて、彼女のリングを。
これからは、同じ工程を交互に繰り返しながら、工程を進めていく。
さあ、楽しい時間の始まりだ。
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出会い編