新しい月が訪れて、光のコントラストが強くなってきている。
屋久島サウスでは、ここに暮らして初めてかと思うくらいに、今年は雨が少ない。
「もうこのまま夏の入ってしまうのではないだろうか」と思いながら、暑さを避ける小さな森を歩いていた。
シダの葉がそよそよと風に揺られている。
木々の合間を通り抜ける光がスポットライトみたいに緑色を濃く浮き上がらせている。
やっぱり人よりも自然が大きな場所が好きだな、と心地よく思う。
これまでの制作が終わって、次のジュエリー作りを始めるその間には、緑や海に囲まれる場所に出かけることが多いのだけど、ここにやってくると、いつもゼロになれるような気がする。
ほんの10分ほどだったように思う。
クリエイションに対するアウトプットの力のようなものを、島から受け取ることができた。
アトリエに戻ると、そのまま作業机に向かい、バーナーに火を灯した。
大阪に暮らすお二人に届ける結婚指輪作りのファーストタッチだ。
シャンパンゴールドを炎に包み、約700度ほどだろうか、真っ赤になるまで温度を上昇させた。
こうすると金属は緊張を緩め、その後の加工がスムーズになる。
柔らかくなったシャンパンゴールドは、くるりとリング状にする前に、今回はかなり多くのタッチを加えることになる。
思い切りよく金属に力をかける。大胆に削り落とす。
早くもここが、お二人の結婚指輪作りの鍵となるフェーズと言ってもいいだろう。
慎重に寸法を守る。ゆっくりと丁寧に繰り返す。
1日をかけたい長丁場の作業である。
そういえば、お二人は音楽をやっていて、それがきっかけで出会うことになったと伝えてくれたなぁ。
考えてみると、料理だったり、花を育てたり、
わたしたちはいつも何かを表現をして、作りながら暮らしていて、
それらは周りにあるささやかな事象と響き合い、日々が生まれていくように思う。
楽曲だって、ジュエリーだって、手と心から生まれるものは、ひとつひとつがいつも新しい。
きっとお二人もこの感じを知っているに違いない。
お二人が出会うこと、屋久島があって、わたしがいて、
そこに生まれる時間のようなリングを作りたいと思っている。
気がつけば、太陽が沈む時刻まで手を動かしていた。
窓の向こうを眺めると、 空にはいつもよりも濃いオレンジ色を帯びた雲が山々を覆うように広がっている。
夕暮れ時の風が冷たい。
ふと、虫の音が響いているのに気がついて、少しの間目を閉じて久しぶりの音色に聴き入っていた。
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