
夜明けの空が、オレンジ色に染まるようになってきた。
考えてみれば、あと少しで11月になるのだ。
朝の風は、冷たい。
それでも、水温がまだそれほど下がらないうちにと海に入り、波に乗ってからアトリエに戻り、作業机に向かう日が続いている。
海のリズムに包まれながら、作業机に向かう時間が好きだ。
熱いカフェオレを作って、細やかな作業に没頭していると、まるで朝の涼やかな風が体を通り抜けたような、とても静かで、平らな気持ちに包まれる。
デザインが繊細であればあるほど、気持ちが落ち着いていくというのは、なんとなく不思議な話だけど。
島の自然に包まれて暮らすこと自体が、集中を深い部分に整えてくれているのかもしれない。
今、作り進めている結婚指輪もまた、とても繊細なタッチを必要とする造形である。
あるいは、ここよりもずっと深い自然に包まれて暮らすおふたりの日々に、思いを巡らせながら。
2本の細いシャンパンゴールドを、その両端をハンマーで叩いて細くし、ヤスリで表面を整えたところまでを書きました。
さて、
下ごしらえをしっかりと施した、二本の繊細なシャンパンゴールドは、
くるりと巻いて、いよいよリングとなる工程へ。
おふたりと一緒に描いたイメージが、
手の中で少しずつリアルな形となる時間を迎えることになる。

両端をぴたりと合わせ、シャンパンゴールドが真っ赤になるまでバーナーで熱しながら、その隙間に、融点の低いゴールドを流し込む。
とてもシンプルな工程だけど、温度のコントロールを意識しながら、慎重に進めてく。
こうして両端がつながり、一つのリングとなったシャンパンゴールドは、以前よりもずっと硬く、安定したものになる。
まずは、彼のリングをつなぎ合わせ、続いて彼女のリングにも、同じタッチを、バトンを渡すように重ねていった。
そして、このあとの削り出し作業を迎える前に、長い時間をかけて表面を丁寧に整えた。
鉄鋼ヤスリで平らな面を作り、240番の粗い紙やすりをざっと表面にかける。
そうして薄く削り落とすと、荒れて黒ずんでいた表面の奥から、やわらかな金色の輝きが現れた。
透明な光のようで、樹木を思わせる穏やかなトーンを湛えたシャンパンゴールドの色彩だ。

嬉しくなって、庭先まで二本のリングを持ち出し、太陽の光の下で眺めてみる。
シャンパンゴールドには、煌めきや色彩のリズムがあって、室内で見ていたよりも、ずっと生き生きとして感じられた。
濃い影と、白っぽく照らされる部分が、同時に小さなリングの中にある。
そのすぐそばでは、島で満開を迎えるサキシマフヨウの花が、海風にゆらめいている。
お隣さんは熱心に庭木の手入れを続けている、なんとも静かな午後だ。
いくつかの方向から、鈴虫の音色が鳴り響いている。
このようにして、指輪作りは島時間の中で、ゆっくりと、そして確かに、その歩みを進めていくのであった。

