新しい制作を始めることにしたのは、夜のあいだ激しく降っていた雨が止んだばかりの、湿度に満ちた朝のことだった。
庭先では、たくさんのツユクサが集うように咲いている。
久しぶりに大好きな花が咲いたのが嬉しくて、散りばめられたブルーの小花を眺めながら、静かな気持ちに満たされていた。
その屋久島の情景の中に、とても澄んだ、力強い輝きが共鳴している。
おふたりの結婚指輪は、お揃いのプラチナで作り進めていくことになる。
アトリエに戻り、窓の向こうに目をやると、山際に薄くかかった虹が見えた。
10月も半ばに差しかかっているというのに、屋久島の南部はまだ夏のような暑さに包まれている。
おふたりが暮らす長野は、もうすっかり秋の気配に満ちているのだろうか。
キノコや栗、リンゴ、そしてカボチャやサツマイモ。
どれも、きっと今がいちばんおいしい季節だ。
屋久島と長野。
自然と寄り添うように暮らす時間が、静かに距離を越え、
おふたりとわたしに、やわらかく、そして豊かなつながりをもたらしてくれている。
結婚指輪として永くお使いいただけるよう、特別に硬く配合をしたプラチナなので、
酸素バーナーの炎に包み、柔らかく焼きなましてから、全ての作業を始めることになる。
プラチナが少し柔らかくなったところで、鉄の芯金に当てて木槌で叩く。
それでもなかなかに硬いもので、しっかりと力を込めながら、
ゆっくりと、少しずつ、リング状に整えていく。
コンコン、とプラチナを叩く音がアトリエに響く。
昔からずっと変わることのない、手作業のリズムがここにある。
窓の向こうからは、ときおり激しい雨音が聞こえてきては、またどこかへと去ってゆく。
アトリエのすぐ前では、サキシマフヨウがポコポコと薄ピンク色の花を咲かせ始めている。
このようして、おふたりの結婚指輪作りは、南国の心地よい空気の中で、静かにその第一歩を踏み出したのであった。
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