プラチナリングを窓際の光で眺めている。
梅雨真っ只中の雨と夏を予感させる虫の音が入り混じる屋久島サウス。
お二人との指輪作りもそろそろ折り返し地点なのかと、ほんの少し名残惜しくなりながら。
ジュエリー作りの間はずっとアトリエにこもっているので、雨はいつだってウェルカムだ。
雨の音や虫の音を音楽がわりにして、作業机に向かって、
今日は彼のリングの造形がひと段落したので、そのお話を。
プラチナは鏡のように、その表面に世界のいろいろを写す。
雨の緑の中ではいっそう深い印象を感じる。
そんな輝きや色彩の移ろいを自分自身で眺めることができるのが、指輪の素敵なところだと思う。
お二人の手に届いたリングには、これからどんな色彩が映し出されるのだろうか。
まだプラチナの塊のようだったリングを、鉄鋼ヤスリを片手にて、削り出しの作業をはじめた時は空はどんよりと重たかった。
ここは手を止めずに一気に作業を進める。
スクエアのリングにスロープを施すように。やわらかくラウンドさせながら。
リングの表面に波模様を描くような感覚だ。
一度進むと後戻りできない緊張感が心地よい。
「スクエアも良いけれど、ラウンドシェイプ も迷っていて。。」
迷っていた彼がかけてくれた言葉から今回のデザインが生まれる。
ストレートなアウトラインに、シンプルな波の切り込み模様。
やはりここも、彼女のリングと繋がりをもたせたかった。
気がつくと、窓の向こうに青空が。
雨の時間を楽しみつつも、夏の到来をどこか待ち続けているなあ。
これはいいタイミングだと、光の下で彼のプラチナリングを眺めてみる。
白が飛んで、さっきよりもコントラストが高くなっている。
その中にしっかりと黒を感じることができるのがプラチナの特徴だなと思う。
リング表面のスロープに跳ね返る太陽の光が眩しい。
それが面白くてくるくるとリングの角度を変えて、面の仕上がりを感じてゆく。
ハイビスカスの生垣の下で、木漏れ日に溶けていきそうだった彼のプラチナリング。キラリと輝くとグッと心に響いてくる。
雨上がり、しずくを纏ったハイビスカスも同じように輝いていて、
指輪と世界がどこか繋がって、祝福し合っているようにも感じられた。