くるりと巻いたプラチナを酸素トーチの炎に包んで繋ぎ合わせたのは、作業が始まって三日目の朝だった。
いよいよこれからだな、というイメージが形になっていく喜びを伴う実感と。
今を大切にしなくっちゃ、という一度だけの指輪作りを想う愛おしさと。
お二人にとってはこれが始まりの合図でもある結婚指輪作り。
プラチナの作業温度は約1400度ほど。耐久性はとても高い。古くはビクトリア様式のジュエリーが今もその頃の形をそのままに保管されていたりもする。
かといって固すぎるわけではなくて、どちらかというとしなやかで柔軟な強さが特徴的でもある。個人的にはその適度な重たさも確かさを感じることができて好きだ。
体や暮らしに寄り添うように馴染んでくれるプラチナはダイヤモンドやゴールドと共に、広く愛されている素材なのである。
そしてもちろん、それらは私たちよりもずっと長い時間をあり続けることになる。
今日も自然が奏でるハーモニーの中で。
夕方前にはリングのフォルムを綺麗に整えることができた。
時計を見るとまだ4時前だったので、「今から車を走らせれば間に合うのでは」と思って島の東側にあるカフェまでケーキを買いに行くことにした。
作業でキューっとなった頭を甘いものを食べてふわりと解きたかったからだ。
あと、そのカフェ、雪苔屋さんは冬季休業に入る前の最後の営業日ということだったので、お店の二人にも会っておきたかったのもある。
その日、島ではちょうどマラソン大会が行われていて、車を走らせると道路の流れはかなりスロー。
ケーキのことが気になってそわそわなオレ。
それでもなんとかカフェにたどり着いて、扉を開いてすぐ左側にあるショーウィンドウに目をやると、最後に残っていてくれた二つのパウンドケーキ。
ケーキが待っていてくれたみたいだね、と思わず声に出して笑う。
ほんの細やかではあるけれど、何気ないラッキーが嬉しかった。
せっかくだからとお願いしたコーヒーを持ってきてくれた彼女の手にはもう何年も前にお作りしたゴールドの結婚指輪。
そんな身近なお付き合いも島暮らしならではのあたたかさである。
彼女の腕の中では赤ちゃんが幸せな笑みで一杯になっている。
あの頃と今とが繋がった瞬間。
きっと作業机に向かっている今日もまだ見ない未来と繋がっているに違いない。
かたちだけだけではなくて、時間の美しさのようなものを創造するジュエリー作りであれば最高だと思う。
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