
朝になると、アトリエは重たい湿度に包まれていました。
久しぶりの、力強い雨です。
ザアザアと部屋に響く音は、分厚い幕みたいで、
こうなると、なかなか外に出にくくなるのも、屋久島の暮らしならではかもしれません。
それでも、窓越しに眺める山茶花が美しくて、
雨足が弱くなるタイミングを待って、ついつい庭先に出てしまう。
無数の雫をまとった花々に心を癒されながら、熱いコーヒーを淹れて作業机に向かう。
年末で、少しずつ忙しくなってくる頃ではあったけど、この雨のおかげで、ふっと力が抜けたような気がしました。
咲き始めたツワブキの花。煌めく海。酸っぱくてキュッとなるポンカン。
屋久島サウスのあたたかなひかりに包まれながら、おふたりの結婚指輪をつくっています。
雨の日は、制作日。
というのが、いつの間にか身についていた暮らしのリズムで、
雨が降ると、今日はアトリエにこもって作業に深く集中できる日だな、と
なんだか嬉しくなるようになりました。
雨の多い屋久島だから、そんな日ばかりということになるのですが、
やさしく刻まれる島のリズムに励まされるようにして、今日も作業机に向かっています。
おふたりが暮らす長野では、きっと雪が降っているのだろうけど、それもまた素敵です。
雪と雨と。
空から降り注ぐものを心待ちに過ごす時間は、もしかすると、とてもよく似ているのかもしれません。
ふと、わたしたちの間のある、やわらかなつながりのようなものに気がついて、嬉しくなりました。

丸くリング状に整えたプラチナリング。
その表面を、鉄工ヤスリで大きく削り出していきました。
雨の音を聞きながら、静かにタッチを積み重ねていくと、夕暮れ時には、リングをぐるりと巡るラインが現れました。
窓際でそのシルエットを眺めると、ほんのりとした光が、小さなリングの中に、明るい部分と影になる部分をつくり出していました。
嬉しくなって、くるくるとリングを回してみる。
そのたびに、表情が新しくなっていく。
プラチナリングは、お気に入りの服を着るように、深い緑色を映した光をまとっている。
まだまだ、始まったばかりではあるけれど、おふたりと一緒に抱いてきたイメージが、リアルな形になりつつある。
その瞬間を前にして、静かな手応えのようなものが、胸のずっと奥の方に響いてきました。

今日の道具たち。
下の段に、鉄工ヤスリが二本と、上の段の精密ヤスリ。主にこの三本で、指輪作りを進めていきます。
案外、定規を使い、けがき線を描きながら、きっちりと寸法を取っていくのですが、
道具はとてもシンプルで、はるか昔から変わらない、精緻なものがいい。
手とリングとの距離が近くなればなるほど、わたしたちの中に巡る響きのようなものが、より確かに、リングに伝わるような気がするのです。

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