
小さなプラチナリングの中に澄んだ水が流れるように、一本のラインを描いている。
ヤスリで削りだされたプラチナが放つ光は、明るくてやわらかい。
大地の響き。
この生々しくもある質感を手の中にできるのは、作り手冥利に尽きる喜びかもしれない。
雨が降るとあたたかくなり、寒さが訪れると空が晴れ渡る。
冬の島リズムの中で。
あと少しで、クリスマス。
観光シーズンを終えた島は、一年ぶりに静けさを取り戻し、なんとものどかな空気に包まれている。
お隣さんからいただいたレモンやポンカンを食べながら、静かに作業に没頭する日々は、冬休みの自由研究みたいで、とても楽しい。

雨が上がり、山際からは、まとっていた服を脱ぐようにして、雲が遠ざかっていった。
屋久島サウスは、驚くほどにあたたかな陽気に包まれて、わたしもTシャツ一枚になる。
不思議なんだけど、この山をもう15年ほど眺めてきたけれども、全然飽きることはない。
島に暮らすと、海をずっと眺めているかな、と思っていたので、少し意外だった。

切削作業をひと段落した。
そして再び、プラチナを酸素トーチの炎に包み、真っ赤になるまで温度を上げていく。
これまでの長い作業でリングが帯びた緊張を解き、いよいよここから、最後となる大掛かりなタッチを加えていく。

表面に削り出した緩やかなカーブと呼応するように、リング全体にもカーブを与えていく。
鉄の枠にあてて、コンコン。
芯金に通して、コンコン。
少しずつ、少しずつ、リングに力を加えていく。
一度足を踏み出すと、もう戻ることのできない工程なので、慎重に進めていかなくてはならない。
大きなカーブ、小さなカーブ。
リングの中に、ささやかな“巡り”のようなものが生まれてくる。
サイズに微調整を加えながら、ビデオ越しに会話を交わした、おふたりのことを思い浮かべる。
わたしたちが一緒に抱いてきたイメージが、とうとうリアルな姿を現した。
海を越えて遠く離れてはいるけれど、手をつなぐようにして、ずっとジュエリー作りの日々を歩んでいる。
ありがとう。
2本のリングのリズムを整えて、無事に一通りの作業を終えることができた。
重たい芯金からそっと外すと、プラチナリングからは、ほのかな温度を帯びた手触りが伝わってきた。
高鳴る思いで、その細部をルーペ越しに眺めてみる。
これだけたくさんのタッチを加えたからだろう、リングの表面には、細やかなたわみが、シワみたいになって集まっている。
これから紙やすりで整えていけば、さらに美しいラインが現れるだろう。
とても硬くて、やわらかな指輪だ。
はやる気持ちを抑えながら、今日はここまで。
朝から長く続いた作業の手を、ようやく止めることにした。

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