
朝早くから作業を始め、夕暮れ時までアトリエで過ごす日が続いていた。
空がオレンジ色に染まる頃、ようやく手を止め、車で少しだけ遠出をすると、
海から吹く風はあたたかく、深く集中していた気持ちをふわりと解いてくれた。
おふたりの未来に広がる情景をモチーフにした婚約指輪。
K18イエローゴールドの細い線を、植物的なラインに造形し、リングの土台を作るところまでを書きました。
そういえば、春になると菜の花が咲くのも、いつも夕陽を眺めている海の近くだったよなあ、と思いながら。

30ヶ所を超えたかもしれない。
金属同士をつなぐロウ付け作業を、一つずつ重ねていったのだが、
細やかにバランスをとりながら造形を整えていると、小さな息吹が手の中で育まれていくようで、幸せな気持ちになる。

ナノハナの指輪は、いつもゴールドだけで作っているのだけど、
今回は、プラチナの薄い板を小さな花びらの形に切り取り、リズムよくリングに組み合わせた。
そして、リングに添える天然石として、
クリアカラーのダイヤモンドと、ピンクサファイアを用意した。
菜の花の絨毯に、桜の花びらが舞い降りるように。
おふたりがこれから迎える春を思い描きながら、緑の中でリングを眺めるひととき。

8月を迎え、島は強い光と影のコントラストに包まれている。
ふとした瞬間に、息を呑むほど美しい色彩に出会う。
夏の情景と、ジュエリー作りだけがここにある。
ありがとう。
ただただシンプルな言葉が浮かび上がってくる。
そのような日々に身を任せているうちに、
気がつけば、指輪作りは大きな工程を無事に終えていた。
完成までには、まだいくつかの作業が残されているけれど、
一度きりの指輪作りだ。
この夏を全部かけて、じっくりと進めていこう。
春を待つ時間は、おふたりだけのものであるはずなのだけれど、
いつの間にか、わたし自身もその日を心待ちにしながら、胸を高鳴らせている。
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