雨の季節から夏へ。
移りゆく時のグラデーションに身を委ねながら、作業机に向かっている。
アトリエのある屋久島サウスでは、ひまわりが咲き始め、海は色濃く、煌めきを増してきた。
その変化はダイナミックで力強く、日々に身を置いていると、躍動する息吹のようなものを感じることができる。
熱帯の、力強いリズムだ。
夜から朝だったり、海と空も、きっとそうだろう。
コンビネーションのデザインで作り進めるお二人の結婚指輪もまた、
いくつかの時間や空間が出会い、作り出される色彩への憧憬なのかもしれない。
さて、アトリエです。
プラチナとK18ホワイトゴールドは、似ているようで、また別の素材。
この二つの金属を組み合わせ、絶妙なグラデーションに仕上げていく。
プラチナの色味は、銀白色。ホワイトゴールドは、グレーがかった金色といったところだろうか。
その移り変わりが自然な印象となるよう、重なり合う部分を斜めにデザインした。
二つの素材がぴたりと組み合わせ、接続をするのだけれど、
コンビネーションの指輪作りでは、この工程が最初にして最大の山場だったりもする。
酸素バーナーの炎に包み、1000度近くまで温度を上昇させ、重なり合う隙間に、融点の低いホワイトゴールドを流し込んでいく。
リングを置いた台をくるりと回しながら、均一に熱を回し、じっくりと。
そして、あるポイントに達したところで、一気に炎の温度を引き上げる。
ピンセットを持ちつつ火を扱うこの種の作業では、慎重さと大胆さが同時に求めれらることになる。
時間とすれば、五分もかからないほどだっただろうか。
けれども、そこには、この日一日分くらいの重みが感じられた。
リングを火から外し、バーナーの炎を切ると、ふわりと軽やかな気持ちになる。
心も体も、あまりに集中が深い場所にあったことがわかった。
さっそく、ルーペを使い、つなぎ目を細やかに点検する。
とても良い具合に仕上げることができたように思う。
彼のリングが、ひとつになった。
まずは、最初の第一歩を無事に踏み出した、といったところだ。
この先長い道のりになるけれど、ひとつひとつ、じっくりと歩みを進めていこう。
リングが形になるのは、真夏のことだろう。
そして、お二人がアトリエに来てくれる。
少し先の未来を、楽しみに思い描きながら。