
梅雨の長い雨が降り続いている。
緑はどこまでも深く、まるで水の中に暮らしているような、湿度に満ちた時間がなんとも屋久島らしい。
毎年ひそやかに楽しみにしているこの季節を味わうように、6月の静かなアトリエで、おふたりの結婚指輪をつくり進めていた。
屋久島に暮らしていたおふたりとは、この雨の感覚も、暮らしの中でふと出会う熱帯の記憶のようなものも、言葉少なに分かち合えるのも嬉しい。
森と海に囲まれたこの小さな島に暮らすようになってから、自然が生み出すあらゆる事象に、畏れを抱くようになった。
ほんのささやかな雨風であっても、ときには想像を超える力を生み出すことになる。
暮らしに直接影響を与える気象状況に対して、いつも注意深く生きていかなくてはならない。
そして、その自然の計り知れない大きさと常に共存しているものが、美しさなのだろう。
作業机の上にある小さなリングに宿る、カーブ、傾斜、重み、丸み、そして手触りも。
その一つひとつのディテールは、島の自然への憧れから生まれてきているように思う。

リングの造形作業も、いよいよ終盤に差し掛かった。
タッチを重ねるたびに緊張を帯びていくピンクゴールドを、ときおり焼きなましながら、慎重に作業を進めていく。
こうして眺めてみると、ずいぶん繊細でやわらかなフォルムになってきた。

一度端正に整えたものに、大きな力や変化を加えるのは、いつでも勇気がいる。
水の流れのような。
季節のリズムのような。
花や月、あるいは人との巡り合いのような。
島の暮らしで出会った記憶を、こつこつとリングに刻み込んでゆく。

リングにゆるやかなカーブを与えた後、表面を紙やすりで丁寧に磨き上げた。
240番から始め、400番、600番へと少しずつ目を細かくしながら、リングの中に生まれた流れを整えるようにヤスリをかけていく。
この段階になって、ピンクゴールドの色彩は初めてその個性をあらわにする。
淡い赤みを帯びた金色は、シルクのように滑らかな輝きを纏っていた。
初めて形になった2本のリングを、鉄製の作業台の上にそっと並べてみると、
なんだか不意に、冬のアトリエでお会いしたおふたりのことを、懐かしく思い出した。
それぞれのリングは少しずつ違っていながら、重なり、響き合っている。
出会うことって、本当に素敵だなあと、しみじみ思いながら、
これから進めていく彫刻作業や磨き仕上げのイメージを、頭の中に思い描いていた。
窓の向こうでは、変わらず雨が土を打つ音が、静かに響き続けていた。

