雨が降り始める前に、出かけておかなくては。
ふとそう思い立ち、アトリエ近くの小さな森へ出かけることにした。
今年は、例年より早い台風の通過などもあって、梅雨らしい雨の日はまだ少ないように思うのだけど、
天気予報を見ると、次の日からは雨マークがずらりと並んでいる。
透明で、みずみずしさに溢れる春の光も、これで見納めかもしれないと思いながら、緑のトンネルを歩いていた。
気がつけば、大きな水の音に包まれている。
台風の雨で水かさを増した川が、まるで歓喜するように、リズミカルに流れている。
木々を通り抜ける吹き返しの風は、まだ強い。
その力強く清らかな情景に包まれていると、からだじゅうが癒されていくのがわかった。
屋久島で出会われたおふたりと、わたしとが手を取り合い歩む結婚指輪づくり。
島に暮らしていると、光と水の印象が、心の奥に残る。
形を持たない響きのようなものが、とても近しく感じられる。
その光や流れそのものを纏うような、ふたつの小さなリング。
かたちの向こう側に触れるためには、どこまでも丁寧に、その形を作り上げていかなくてはならない。
さて、アトリエです。
今日も作っている。

丸く成形したピンクゴールドを再び炎に包み、一つのリングへと繋ぎ合わせていく工程。
両端は糸鋸でカットし、目当てのサイズに合わせておいた。
温度を少しずつ上げていき、地金が溶ける寸前で、融点の低いゴールドを繋ぎ目にスッと流し込む。
これまでに幾度となく行ってきたけれど、いつも背筋の伸びる作業である。
緊張感に満ちた時間が、心地よい。

ロウ付け作業がひと段落したのち、リングを完璧な円形に整えた。
紙やすりで表面をひと削りすると、ピンクゴールドの艶やかな色彩が現れた。
リングの幅には変化をつけ、それぞれの表情を生み出す土台を作ってある。
これから始まる削り出し作業の準備が整った、というところだ。
それにしても、直線的な形状の時には、なんとか手で曲げることができたピンクゴールドだけど、
リングとなった今は、もうこの時点で、かなり硬い。
手を繋ぎあい、強くなる。
そしてこれから、長い時間を越えてゆく。
小さなリングの中には、どこまでも果てしない物語が広がっている。
デスクライトに照らされたふたつのリングを眺めながら、
小さな森で出会った降り注ぐ光や、絶え間ない水流の音を、穏やかな気持ちで思い起こしていた。

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