
朝、目を覚まして庭先を眺めると、朝露が草花を覆っている。
風は凪いでいて、どこかひんやりとした涼しさが感じられる。
その情景に出会うと、いよいよ秋がやってきたのだなと、いつも思う。
そうか、もうすぐ秋分の日なのか。
南国にようやく訪れた秋の気配に頷きながら、新しい作業に取り掛かる準備を進めていた。
季節が移ろい、新しい気持ちに包まれた今、おふたりの結婚指輪を作り始めることが、とても素敵なタイミングであるように思えた。
昇り始めた太陽の光の中で手に取ったイエローゴールドは、島の色彩と響き合っているような、静かで親しみのある輝きを纏っていた。

アトリエに戻り、さっそく作業台に向かう。
ガスバーナーに火を灯すと、心が穏やかになっていくのがわかる。
今回の制作のために配合を整えたK18イエローゴールドを、その炎で包み込んでいく。
熱を受けたゴールドは赤みを帯び、やがて眩しいオレンジ色に変わっていった。
その一瞬を見計らって火から離し、そのまま水につけると、ジュッと歯切れの良い音を立てた。
まずは最初の一歩だ。

おふたりの結婚指輪作りのお声がけをいただいたのは、島にヒマワリやハイビスカスが咲き誇る、カラフルな夏の始まりのことだった。
彼女のリングをひとつ作ってほしいと、彼とメッセージを交わしながらデザイン作りを進めてきたのだけど、そのひとつ一つの言葉から彼のやさしさが伝わってきて、わたしもあたたかな気持ちに包まれながら、ここまでやってくることができた。

焼き鈍したイエローゴールドは、ぐいっと強い力をかけると曲げられるようになり、わたしはそれをリング状に整え、両端を合わせた。
再び炎に包みながら、隙間に融点の少し低いゴールドを流し込み、しっかりと繋ぎ合わせる。
その日の工程がひと段落し、作業台の上にリングを置いて眺めていると、まだまだ始まったばかりではあるが、おふたりと一緒に紡いできたイメージが初めて形になったことを実感し、喜びに満たされた。
これからずっと長くお使いいただく結婚指輪作りだ。
ひとつひとつ、じっくりと進めていこう。

その日の作業を終え、アトリエの窓を開け放ち、ゆっくりと深呼吸をした。
空に流れる大きな雲はオレンジ色に染まり、気がつけば、もう日も暮れかけていた。
空気はいつもと変わらず、島独特の潤いに満ちている。
庭先からは、ほのかに秋の虫の音が聞こえてくる。
わたしは、作業台の上に散らばったいくつかの工具を所定の場所に戻し、机をきれいに拭いて、照明を落とす。
こうして、指輪作りの一日は、秋の色彩に包まれながら、静かに暮れてゆくのだった。
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