ここ数日は、嵐が続いているので、アトリエにこもる日々が続いています。
指輪作りが始まった頃に訪れた浜辺の情景を、懐かしむように思い浮かべながら、静かな気持ちで作業机に向かっています。
海は本当に不思議で、あれほど大きな潮騒に包まれているのに、どこかとても静かな場所に感じられます。
心がすっと穏やかになっていくのです。
小さな島での暮らしですので、海はいつも近くにあって、ふとした瞬間に癒してくれる。
ジュエリー作りに、豊かなインスピレーションを与えてくれているように思います。
波打ち際を歩いて、打ち寄せる波や、水面を走るうねりを眺めていると、かたちを持たない力のようなものを感じます。
それは、季節の巡りや、朝と夜、雨が降って虹が現れる――みたいな、移りゆく時間のかたちなのかもしれません。
ときにはかたちを宿し、ときには空気を漂うものとなりながら。
おふたりのリングもまた、わたしたちをいつもやさしく包み込んでくれる、“時間”のようなものになればと思うのです。
リングの表面には、ぐるりと巡る流線を削り出し、そのエッジを際立たせるように仕立てました。
アウトラインにも、ゆるやかなカーブを施しています。
造形作業も佳境に差し掛かると、結局のところ、最後は手の感覚のみを頼りに進めていくような感じになるのですが、
紙やすりを片手に、プラチナリングを包み込むように磨き上げていくと、
やがて手の中に、一つの小さな光のようなものが、ぽつりと灯る瞬間に出会えます。
それは、確かな重みを持った温度であり、
まるでここに一輪の花が咲いたような時間が、静かに訪れるのです。
思い返してみると、彼から最初にお便りをいただいたのは、あちらこちらで桜の花が咲き始めた春先のことでした。
あれから、菜の花をモチーフにした婚約指輪の制作を経て、半年ほど。
屋久島の南部では、いまコスモスが開花を迎えようとしています。
おふたりとこの夏をご一緒した結婚指輪作りも、いよいよ完成間近となり、
なんだか少しだけ、名残惜しいような気もしますが 笑。
この指輪の完成は、実はゴールではなく、スタートの合図でもあるのですね。
お互いに、美しいスタートを迎えることができるように、
最後まで、しっかりと、丁寧に仕上げていかなくては。
造形作業がひと段落したプラチナリングには、内側に刻印を施して、磨き仕上げの工程を待つばかりとなりましたが、
この続きは、また別のお話で。
夕暮れ時のビーチに散りばめられるような、まばゆくやわらかな輝きを纏って仕上がるリングを、どうぞ楽しみにしていてください。
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制作編
菜の花の婚約指輪