
台風が近づいている。
台風は島の南を通り、大陸へと抜けていく予定ではあるが、それにしても、今年は本当によくやってくる。
時をあたらしく生まれ変わらせるように、自然の巡りを整えてくれることもまた、台風がもたらしてくれる恩恵なのかもしれない。

朝早くに、激しい雨が降った。とても短い雨降りだった。
すぐに青空が広がり、庭先に出てみると、久しぶりにツユクサが咲いていることに気がついた。
自分自身でも不思議に思うのだけど、台風が近づくにつれ、少しずつ変わってゆく空気の気配を、体で感じることがある。
何か新しい扉が開かれていくような、静かな胸の高鳴りとともに。
新しいジュエリー作りを始める準備を進めていた。
シャンパンゴールドの細い線が、雨上がりの陽光を受けて、どこか嬉しそうに輝いている。
島の緑はひときわ鮮やかで、瑞々しい。
おふたりの結婚指輪作りを始めるのに、とても良い朝のように思えた。

さて、ほの暗くて涼しいアトリエの中。
さっそく作業机に向かい、シャンパンゴールドの線をちょうど半分ずつに切り分けた。
それぞれをくるりと巻いて、ぴたりと同じ大きさのリングを作る。
まだ始まったばかりではあるが、こうした一つ一つの小さなタッチが、最後の仕上がりまでつながってくるので、できる限り高い精度を保っておきたい。
次に、直径1mmの線で作ったリングを重ね合わせ、一つの立体的なリングに仕立てていく。
リングの1/3ほどを開き、残りの部分が接するように、ステンレスのコードで固定した。
ガスバーナーの炎で包み、ゆっくりと温度を上げていく。
リングが赤みを帯びてきたところで、二つのリングが接する部分に、融点の低いゴールドを流し込む。
950度ほどだろうか。
リングが溶けてしまわないように温度を見極めながら、右側から、そして左側から、ピンセットでゴールドの小さなかけらをリングにあてがい、ルーペで確認する。
すべてが整ったところで、バーナーの温度を少しだけ上げ、リング全体にふわりと火を回す。
すると、ゴールドのかけらが液体となり、二つのリングの隙間へすーっと流れ込んだ。

夕暮れ時に作業を終え、窓を開け放ち、山々を眺めると、空には鮮やかな夏の色が広がっていた。
空気は、熱帯ならではの濃い湿り気を帯びている。
わたしは山の稜線を眺めながら、ゆっくりと深呼吸をする。
細やかな作業が続き、疲れた目が少しずつ癒やされていくのがわかる。
庭の芝生からは、草の青い香りが漂ってくる。
これから熱いコーヒーを作って、ひと休みをしよう。
こうして、わたしたちの長い指輪作りが、静かに幕を開けたのだった。
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