近所にある小さな森を散策し、アトリエに戻ったのは昼を少し過ぎたころだった。
夏の光はまだ、島の至るところに漂っている。
木々を見上げたときの眩しさや、水面のたゆたい、鳥たちの囀り。
島が奏でるリズムがまだ体の中に留まっているのを感じながら机に向かい、この日の作業を始めることにした。
大切な工程を迎える前には、散歩をしたり海に入ったりして、ひとときの時間を過ごすことが多い。
島で暮らすようになり、自然の中に身を置き、その躍動感を帯びた静けさに波調を合わせるのが好きになった。
2025年の夏を味わうように、おふたりの結婚指輪を作り進めてきた日々は、わたしにとって、とても大切なものとなった。
島の季節が、いつもやさしく包み込んでいてくれている。
作業机に向かい、削り出しを終えたシャンパンゴールドのリングを並べ、少しの間じっと眺めた。
まず、一本を朴炭の上に置き、ガスバーナーで大きな炎を回しかけた。
シャンパンゴールドが柔かくなったところで、鉄の型枠に置き、木槌を使い圧力をかけるように曲線を与えた。
まだ粗いタッチにすぎなかったが、そこにはひとつの流れが生まれていた。
指もとを優しく包み込んでくれる、水の流れだ。
それは、わたしたちが長い時間をかけて一緒に思い描いてきたフォルムだった。
そして、もう片方のリングにも同様のタッチを加えていくと、
そこに響き合うリズムのようなものが芽生えてきた。
キラキラとした時間は、突然やってきた。
一輪の花が咲いたような、美しい瞬間だった。
造形がひと段落した二本のリングを庭先に持ち出し、そのシルエットをハイビスカスの木陰で眺めた。
ガラストレーの中でそっと重ね合わせると、シャンパンゴールドが島の色彩を映し、七色に輝いていた。
この先にまだいくつかの工程が控えているのだけど、
それでも、素敵なリングに仕上がる未来を、はっきりと思い描くことができた。
リングは、流線型のフォルムをまといながら、同時に、形のないおふたりの大切な想いでもあった。
長い道をともに歩み、ようやくここまでやってきた。
完成が楽しみでならないが、この先もじっくりと育んでいこう。
本当に、ゆっくりとした島のリズムだけど、
いつもあたたかく見守っていてくれて、ありがとう。
海を越えておふたりと分かち合ってきたこの夏を、
少しだけ名残惜しく感じながら。
オーダーメイドのお問い合わせはこちらまで
hp@kei-jewellery.com
tel: 0997-47-3547
制作編