
アトリエの庭先に、夏の白い百合が咲いている。
島では、春と夏の二度、白い百合が花を咲かせるのだが、
それぞれのシルエットは少しずつ異なり、茎を伸ばす場所も違っている。
ヒカンザクラの木の下に、ふたつの百合が並んで咲いたのは、実は今年が初めてのことだった。
朝6時ごろの光は、まだやわらかい。
芝生には、昨夜の涼しさを残すように、ほんのりと朝露が宿っている。
生垣からこぼれる木漏れ日の中、一年ぶりに出会う夏の花を、心穏やかに眺めていた。
夏の白い百合が咲くと、蝉の鳴き声やスコールの情景が重なってくる。
よく考えてみると、花に結びついた思い出は、とても多い。
まるで、私たちの周りで起きた印象的な出来事や大切な時間に付箋を貼って、目印にしておいたように。
色や香りに触れると、その時の想いが蘇ってくる。
ほんの小さな形ではあるが、その向こう側には、果てしない時間が広がっている。
そのような感覚は、ジュエリーにもよく似ているのではないだろうか。
島に暮らし、花をモチーフにしたジュエリーを作り始めたことは、ごく自然なことだったように思う。
海に囲まれた小さなアトリエではあるが、オーダーメイドのお声がけをいただき、近しい気持ちを分かち合える。
そのことが何よりも嬉しく、ものづくりを続けるわたしの背中を、いつもそっと押してくれているように思う。

作業机に並んだ、3つの花。
さて。
アトリエでは新しいジュエリー作りが始まっている。
K18イエローゴールドの板を、糸鋸と鉄工ヤスリを使い、5mmほどに削り出したところ。
あたたかみを帯びたゴールドの色彩を眺めていると、やわらかな春の光を思い出す。

ガスバーナーの炎で焼きなましたイエローゴールドの花を、鉄の枠に添えてコンコンと叩いていく。
平に角ばっていたものが、ころりと丸いフォルムに変わる。
花びらのカーブを徐々に深めていくと、
ほんのわずかに、そこに小さな息吹が宿ったように感じられる。
ふと、海沿いに広がる菜の花畑の情景が、心をよぎった。
潮風の香り。
ゆらめく黄色いシルエット。
一つひとつ細やかな手仕事を重ねていると、どこか夢のような時間が、そこに流れているように感じられた。

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