
屋久島サウスにサキシマフヨウが咲いた。
ピンク色の花が手を広げるように、ぽこぽこと咲いている。
県道沿いのお気に入りの場所に佇み、花を見上げていると、りんりんと響く虫の音が驚くほどに鮮やかだ。
南国に訪れた遅い秋を体いっぱいに味わいながら、一年ぶりのその感覚に喜びを覚えていた。
少し冷たくなった空気は澄み渡り、緑はどこまでもみずみずしい。
新しいジュエリー作りを始めるのには、この季節の巡りがとても素敵なタイミングのように思えた。

アトリエでは、久しぶりにエアコンのスイッチを落として作業を進めることができた。
照明を落とし、静けさに包まれた部屋で、この制作のために配合しておいたプラチナを作業台に並べた。
まずは酸素トーチの炎を吹きつけ、プラチナを焼き鈍していく。
やがて温度が上昇し、オレンジ色の眩い輝きを帯びてくる。
こうして焼き鈍しておくことでプラチナは柔らかくなり、この後の工程をよりスムーズに進めることができる。
この多様な変化と確かな強さに、大地から生まれた金属の響きのようなものを感じずにはいられない。
遮光サングラス越しに眺める色彩が美しい。
いよいよ、本格的な造形作業が始まる。

焼き鈍したプラチナを鉄の芯金に添え、木槌で叩いて丸く整えていく。
コンコンと昔から変わらない音がアトリエに響き渡る。
開け放った窓からは新鮮な空気が流れ込み、作業場は秋の澄んだ光に満ちている。
まずは彼のリングを、そして次に彼女のリングを。
ひとつの形をもうひとつに写し取るように、同じ工程を丁寧に繰り返していった。
おふたりの結婚指輪は、サイズとリング幅だけを変えて、ぴたりと同じデザインでお仕立てすることになっている。
考えてみると、パートナーとお揃いのものを手にするのは、結婚指輪が初めてなのかもしれない。
あるいは、それが長い年月を通して、たったひとつのお揃いのものになることもあるだろう。
ふとしたときに、「あ、これ同じだものね」と感じるだけで、なんだか安らかな気持ちに包まれる。
どこかはるか昔からつながっていたような、やわらかな絆を感じられる結婚指輪になればいいと思っている。

山々の緑は生き生きと色づいている。
これから年末にかけて、屋久島サウスでは穏やかで過ごしやすい季節が続くことになる。
おふたりとは、冬にリングをお届けする約束をした。
島の季節に包まれながら、おふたりの結婚指輪がまるで開花を待つ小さな蕾のように、静かに育まれてゆく。
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