夜明け間近の月は、水平線の近くに浮かんでいた。
ちょうど満月を過ぎたところだったのかもしれない。
まだ5時過ぎだったけど、空はほんのり明るくて、1日を早くスタートできたような気がして、嬉しかった。
作業を始める前に海で時間を過ごすことができるのは、島暮らしならではの喜びだと思う。
お二人とは、指輪作りの始まりに、一度お電話で話しました。
わたしもずっと街で暮らしていたけれど、
自然に近い暮らしへの憧れで、お二人とはつながっているような気がしています。
「これから自然に近い場所で暮らしていきたいです!」
結婚指輪作りの始まりに、お二人はそう話してくれた。
シンプルで、体の一部のように優しく馴染むシルバーリング。
きっと、これからの暮らしには、手を動かす時間もたくさんあるはずだから、メンテナンスのしやすさも考えて、プレーンなスタイルのデザインを選んだ。
シルバー特有の柔らかく優しい手触りの中に、しっかりとした強さを宿すよう、丁寧に仕上げていかなくてはならない。
さて、アトリエです。
くるりとリング状になったシルバーは、造形を施す前にひと作業を加えておく。
金槌でコンコンと、表面を、そして側面を叩いていく。
こうしておくと、シルバーの組成が圧縮されて、グッと硬くなる。
リング全体が一回り小さくなるくらいまで、しっかりと力を込めて叩いていった。
表面にできた凸凹はこれから削り落としていく。
タッチの形跡は全て消えてなくなるけれど、それは、料理で言うところの下拵えのようなものかもしれない。
表面に現れないところが、実は手触りや感覚にダイレクトに響いてくる。
とても大切な工程だったりもする。
金槌を使った作業を一通り終えて、リングを手に取ってみると、しっかりとした安定感のようなものが伝わってきた。
優しさと確かさと。
煌めきと静けさが、同時に存在する感じ。
島の光、風のリズム、草木や海、出会う人々も。
すべてが調和の中で紡がれてゆく。
目の前にあるシルバーリングも、この大地から生まれたものだと思うと、腑に落ちる感覚がある。
お二人は、どんなふうに出会ったのだろう。
そんなことを、不意に思った。
すべてと響き合いながら、長い時間をかけてゆっくりと育まれゆく。
野原に咲いた一輪の花みたいな、澄んだ美しさを宿す指輪になればいいと思う。
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