島の北側にたどり着くと、ほんのりと秋の気配が漂っていた。
雨が降っていたせいもあり、朝の空気は少し冷たく、薄暗さを帯びている。
道のあちらこちらに、大きなピンク色の花がぽつりぽつりと咲いている。
一年ぶりにサキシマフヨウに出会い、今年もあと二ヶ月ほどなのだと感慨に耽りながら、屋久島ノースの海を眺めていた。
小さく丸い島では、北と南で風向きも気候もまったく異なる。
その暮らしは、いつまで経ってもエキサイティングだ。
秋と冬はひと足早くノースに訪れ、サウスに暮らしていると、春と夏にいち早く出会うことができる。
そして海や森はいつも、その移ろいを、目に見える変化として鮮やかに映し出してくれる。
海のそばに暮らすおふたりも、きっと新しい季節の到来を、あちこちで感じているに違いない。
距離を超えたオーダーメイドではあるけれど、夏から秋へと移ろいゆく芳醇な時間を分かち合えることは、何よりの喜びだ。
イエローゴールドで小さな葉をかたどり、それに組み合わせるリングを削り出してから、数日が経った。
アトリエでは、宝飾ならではの細やかな作業が、静かに長く続いている。
彼女に届ける大切な記念のリングなので、特別なデザインに仕立てたい。
そんな彼の理想を伺い、リングには大粒のダイヤモンドをセットすることにした。
直径3.0mmのダイヤモンドを包み込む石枠を作り上げるのには、ひときわ深い集中を要した。
作品に表情を与える大切な部分だ。
ほんの0.1mmの誤差に気を配りながら、ピンセットとルーペを片手に、いくつものタッチを重ねていった。
葉とリング、そして石枠。あとは、装飾のために作ったいくつかのゴールドの粒をそろえて、いよいよそれらを一つに組み合わせていく作業に取り掛かる。
ここでは、いわば構図、絶妙なバランス感覚が求められるのだけど、その手本となるものは、すでに自分の中にたくさん刻まれているように思う。
目を閉じれば、自然と島の情景が広がってくる。
庭先や散歩道で出会う植物たちの美しいシルエットを思い浮かべながら、静かな心で、その小さなリングのバランスを構築することができた。
ゴールド同士の接地面をヤスリで軽く削り出し、綺麗に整えておく。
そこにガスバーナーの炎を当て、融点の低いゴールドを流し込む。
1箇所の接続作業が終わると、コップの水に入れて急冷し、ルーペで仕上がりを細かくチェックした。
もし接続が甘いところがあれば、溶接作業をやり直し、うまくいったところで、次の接続作業へと進めていく。
そんな単純な作業を、何十回と繰り返していった。
ここで初めてリングがひとつとなり、これから最後の仕上げへと進めていくところだ。
おふたりとインスピレーションを分かち合いながら作り進めてきた指輪なので、本当に「生まれてくる」という感覚がある。すごいことだと思う。
これまでずっとありがとう。
長い時間をかけて育んできた指輪づくりだ。
残された作業を味わうように、大切に紡いでいきたい。
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制作編