しとしと柔らかな雨が降り始めている。
庭先では、知らぬ間に大きくなってきた若草が、朝の雫をたくさん抱いている。
そろそろ冬もピークを迎え、次の季節へと移ろい始める頃なのかもしれない。
「この雰囲気も久しぶりのことだなあ」と、春の湿度に満ちた日々を思い出していた。
ゴールドの小さなかけらを墨の上に乗せ、バーナーの火を当てると、まるで雨の雫のようにキュッと小さな球体になる。
かけらの大きさに変化をつけながら、いくつかの雫を少し多めに作っておいた。
今日が雨の日だったのも、素敵なタイミングだったように思う。
島の暮らしで何よりも大好きなのは、水の印象かもしれない。
菜の花をモチーフにした指輪作りも、いよいよ終盤に差し掛かっている。
イエローゴールドの板を切り抜いたり。細い線をくるりと巻いてつなぎ合わせたり。
草花を摘んで纏うように、金属を柔らかに紡いでゆく。
島のジュエリー作りは、いつも子供心を思い出させてくれる。
雨上がり、ぽつりぽつりと雫をまとった菜の花。
やがて雲の隙間から陽光が差し込み、黄色い輝きがキラキラと揺れ始める。
その佇まいを何気なく見つめ、心を躍らせる。
日々に出会うささやかな喜びをジュエリーにして、分かち合うことができれば嬉しい。
小さな装飾を加えるのは、造形のリズムを整えるためでもあるし、実は、強度を高めるためだったりもする。
リングと花のつながりが揺るぎないものとなるように、小さな粒を一つずつ補ってゆく。
ゴールド粒の装飾は、少ないと寂しくなるし、多すぎると重たく感じられる。
細部のバランスやリングの繊細さを、アトリエでお会いした彼女の印象に重ねながら、作り進めていく。
火を使う工程をすべて終えると、作業場をざっと片付け、海の見える場所まで車を走らせ、夕暮れ時の潮騒に耳を澄ませた。
ダウンジャケットを着込んで車を降り、深呼吸をする。
うん、きっと明日も良くなる。
ただそれだけのことではあるけれど、このシンプルな日々が、何よりも幸せなことのように感じられた。
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