イエローゴールドのリングの造形作業を始めてから、はや2日ほどが過ぎ去り、
その内側を精密ヤスリで削り始めた朝、リングの表情にやわらかな変化が現れた。
彼のリングは、すっきりとしたスクエアシェイプのデザインで作り進めていた。
「あ、ゴールドの温度を感じることができる。」
わたしは作業を少し止め、リングを手の中でそっと握りしめてみた。
「ずいぶん、表面を削り出せてきたな」
作業の進捗を確かめると、またヤスリを握り、手を動かし始めた。
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スクエアシェイプというと、エッジの立つシャープな印象があるかもしれないけれど、
その中に、どこかやわらかで親しみのある手触りを生み出したいと思っている。
実のところ、フラットな形状の表面には、わかるかわからないくらいの緩やかなカーブを施して仕立ててある。
それに対して、側面は完全なフラットだ。
そして、指に触れるリングの内側は、大きくラウンドさせて仕上げていく。
このシャープネスとやわらかさのバランスが、イエローゴールドの手触りをより一層際立たせてくれる。
相反する要素が交わることで、仕上がりに深みが生まれるのは、あるいは、フランボワーズとチョコレートの出会いに似ているかもしれない。
それは、シャープなスクエアシェイプであり、同時に丸く、やさしい存在でもある。
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内側をなめらかに整えたリングは、ここでもう一度火にかけて、金属の緊張を解いておいた。
イエローゴールドをやわらかく焼き鈍しておき、これから更なる造形を与えていくことになる。
朴炭の上に置いたリングが熱を帯びて、真っ赤な光を放っている。
常温であれだけの強度を持つゴールドは、1000度を超えると溶けてしまう。
その境界に在り、より際立つ儚さと強さが、とても美しく感じられた。
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夏の早起きは楽しい。
朝焼けの美しい日が続いている。
窓の向こうにオレンジ色の大きな雲を眺め、散歩に出かけると、
昨日よりもたくさんの花を咲かせたハマユウが、気持ち良さげに朝露を纏っている。
やがて、太陽の光が差し込み、一気に汗ばむほどの暑さを感じ始める。
それを合図にするように急いでアトリエに戻り、カフェオレを作り、それを持って作業机に向かう。
気がつけば、蝉の声が響き渡っている。
このようにして、夏のジュエリー作りは続くのであった。
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