夜と朝が交差する時間。
海と空が出会う場所。
自然が織りなす色彩のグラデーションのなかに佇むひとときが好きだ。
シダの葉とツワブキの花。
屋久島の暮らしで親しみ深い植物をモチーフにして、彼女のエンゲージリングとマリッジリングを作っている。
深い森を歩き、波に乗り、あるいは小さな植物たちを眺めているとき。
そこに、完全なる調和があることを知り、心が癒される。
その世界に憧れ、愛おしく思う気持ちで、お二人とは繋がっているのかもしれない。
さて、
エンゲージリングとマリッジリング、そして彼のリングとが奏でるハーモニーとは。
お花のリングの造形作業がひと段落したところで、初めて二本のリングを重ね合わせてみる。
アトリエの庭先には、今日も夏の強い日差しが降り注いでいる。
深い緑も、ハイビスカスの赤も、これからリングにセットするイエローサファイアも、すべてが響き合っているように感じられて、心が静かな喜びに包まれた。
花と葉っぱをかたどるプラチナと、リングの役割を担う、細いイエローゴールド。
重なり合うリングが一つのように見えるのは、シンプルな素材が出会い、生み出す整合性によるものだろう。
不思議なことだけど、
硬くて冷たい金属の中に、植物たちが持つぬくもり、そして色彩までもが蘇ってくる。
考えてみると、ゴールドやプラチナも、この大地から生まれたものだ。
実のところ、植物たちと同じ響きを秘めているというのも、なるほど。
ハイビスカスは、赤くてシンプルな品種が一番好きだというのは、彼女と意見が合った。
さて、ここで一旦、彼女のリング作りをひと段落させ、
次は彼のリング作りに取り掛かることにした。
その余韻の中で、同じリズムを保ちながら、ペアのリングを形作っていく。
彼のリングには、k18イエローゴールドの細い板を用意した。
細いとはいえ、しっかりとした重みのある金属の手触りが伝わってくる。
その細いゴールドの板を木槌を使い、丸く、リズムよくリングの形状に整えた。コンコン。
その後、糸鋸を使ってイエローゴールドの両端をサイズに合わせてカットする。
切断面同士を隙間なくぴたりと合わせ、ここでようやく下準備の完了、というところだ。
そして、時間を置かずに、その両端をつなぎ合わせる作業に移る。
ガスバーナーを使う作業の温度は950度ほどになる。
これまでに何度も行ってきた溶接作業であるけれど、いつも背筋が伸びるような緊張感がある。
心を深く沈め、炎の量とリングの温度に細心の注意を払いながら、タッチを重ねていく。
リングが一定の温度に達したところで、繋ぎ目に融点が少し低いゴールドを流し込む。
作業中は、細部の造形をどこまでも鮮明に見ることができ、一つ一つの工程がゆっくりと長く感じられる。
時を忘れ夢中になっていたけれど、きっと30秒ほどの短い時間だったかもしれない。
リングを火から外し、グラスに注いだ水の中に素早く入れる。
すると、まるで作業の区切り目を告げる合図のように、ジュッと歯切れの良い音がアトリエに響いた。
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