南国である屋久島では、本土に先駆けて季節の花が開花を迎える。
パン屋に向かう途中にある地さな広場では、ヒカンザクラがちらほらと花を咲かせている。
昼食に間に合うように帰らないといけないのに、ついついその小さな広場に寄って、芝生に腰を下ろし、散りばめられた紅紫色を見上げてしまう。
ゆらゆらと暖かな風にそよぐ花びらは、とても儚い。
この花が咲き始めると、冬も折り返しとなる合図でもあるので、いよいよか!と嬉しくなる。
ところどころに新しい季節の兆しを感じながら、ピンクゴールドとプラチナのコンビネーションリングを作っている。
3月にはお二人がアトリエを訪ねてくれることになっている。
ピンクゴールドとプラチナを組み合わせ、リングを仕上げていくのだけど、
異なる種類の金属が寄り添いあい、新しい一つの造形が生まれてゆく時間に、お二人の出会いを重ね合わせたりする。
この硬質な金属に、波や風のように柔らかで、温度感のある手触りを宿すには。
さて、今日のアトリエです。
約860度の炎に包み、ピンクゴールドとプラチナをつなぎ合わせたリングは、その表面をしっかりと削り落とし、端正なフォルムに整えた。
サイズと寸法を、お二人と相談して決めた数値に調整し、ここでようやく下ごしらえが完了したところだ。
彼のリングは彼女のリングと比べ、一回りだけリング幅が広く、厚みも大きい。
つけた時にお揃い感が生まれるよう、微妙な調整を加えながら作り進めていく。
鉄鋼やすりを片手にリングの表面を削り落としていくのだけど、
ピンクゴールドとプラチナで、やすりを通して伝わる手応えが全く異なるのが面白い。
しなやかな強さを持つプラチナの部分では、力を強く動かしていく。
一方、ピンクゴールドはとても硬い素材ではあるが、削ると思いの外さらりとした質感で、ソフトタッチで進めていく。
表面を丸く柔らかに、そして側面にしっかりと平面を残すように、タッチを重ねていく。
作業台にはピンクゴールドとプラチナの混じり合う金属片が散りばめられ、デスクライトの光に照らされ、キラキラと煌めいている。
やがて、削り落とされたリングには生々しい金属の光沢が現れた。
金属が持つ独特の風合いがなんとも言えず、好きだ。
その色調は奇跡のように美しく、手触りには無限の力強さと優しさが宿っている。
あるいは、それは大地の手触りなのかもしれない。
手に取ると、安らかな心地に包まれる。
なんだか大切な場所に戻れるような気がして、癒やされるのだ。
夕暮れ時には、いつものビーチまで車を走らせて、ずっと遠くの水辺線を眺めた。
太陽が沈ぬみつれて、空の色がブルーから黄色、優しいピンク色へと移り変わっていくのがわかる。
風はなく、雲はほとんど動かない。
澄んだ空気の冷たさに、思わず体をすくめる。
向こう側にある堤防の先端では、釣り竿を持った人が今日最後の魚を待っている。
打ち寄せる波音がその全てを包み込む。
今日1日に、ありがとう。
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