今年最初の大きな虹は、山際の低い部分に、日中ずっと掛かっていた。
作業の間に窓の向こうを眺めると、雲の重なりにより色の濃淡が変わり、時折ダブルレインボーにもなった。
外の空気は冷たく、どこまでも澄み渡っている。
山々はずっと変わらずにここにあるはずなのに、不思議といつまでも眺めていられる。
ずっと遠くを眺め、目を休ませると、また作業机に戻り、ルーペとピンセットを片手に細やかなタッチを重ねていく。
そのようなリズムを一日繰り返していた。
ジュエリーが出来上がる頃、春がやってくる。
お二人が島を訪れる日に向けて、菜の花の指輪を作り進めている。
1月も終盤になり、冬がいよいよ深まると、森には雪が積もり、島にはツーリストの姿もほとんど見ることはなくなってしまう。
春がやってくるまでカフェやレストランは軒並み店を閉めてしまうので、外食をするタイミングもぐっと減ってしまう。島を離れ、長い旅に出かける移住者も多い。
そういうわけで、この季節はアトリエに籠り、美しい山々や海を眺めながら、静かに制作の日々を過ごすわけだけど、ささやかな喜びに満ちているこの季節を、いつも大切に過ごしている。
ポンカンやタンカンは食べきれないくらいにあって、庭先に出会う花がそっと励ましてくれる。
ありふれた言葉かもしれないけれど、「ここには何もないかもしれないけれど、全てがあるのかもしれない。」
さて、今日のアトリエです。
結婚指輪などシンプルなジュエリーとはまた違って、小さなパーツをいくつも組み合わせながら造形を進めていくのだけど、花をモチーフにする指輪作りは、完成までの工程がたくさんあって楽しい。
イエローゴールドでかたどった小さな花は、その一つ一つを隣り合わせるようにして、丁寧につなぎ合わせていく。
花が指を包み込むように、Uの字に作った台に乗せ、あらかじめカーブをつけておく。
ゴールドが溶けてしまわないよう、炎の強さに最大限の注意を払いながら、3つの花の温度を上昇させてゆく。
やがて芯まで真っ赤に変わるタイミングを測り、花と花が接する部分に融点の低いゴールドを、すっと流し込んだ。
作業をひと段落し、緊張をほぐすために、庭でホッとひと息を。
足元には、一年ぶりにスミレが花を咲かせていて、思わず心が躍った!
繊細で、力強くて。
ジュエリー作りの憧れは、いつも庭先に出会う植物にあるように思う。
つなぎ合わせた3つの花を綺麗に磨き上げ、そのあとに、同じイエローゴールドで二本の細いリングを作った。
菜の花の繊細で、寄り添い合う雰囲気が好きだ。
ここで作業の下拵えが完了、といったところなのだけど、
これまでの工程を振り返ってみると、その一つ一つが、一度だけしかできないタッチであったりする。
そう考えると、こうして生まれてくるジュエリーが、本当の花のように、かけがえのないもののように感じられた。
今日はここまで。
明日もまた、ジュエリー作りだ。
オーダーメイドのお問い合わせはこちらまで
hp@kei-jewellery.com
tel: 0997-47-3547