
ふとした瞬間に、新しい季節の気配を感じた。
少しひんやりとした朝だった。
台風が去り、およそ1週間途絶えていた流通も再開し、島には穏やかな日常が戻りました。
自然の移ろいを身近に感じながらジュエリーを作れることも、島暮らしならではの贈り物なのかもしれません。
いつも新しいインスピレーションを届けてくれる屋久島に、ありがとう。
潮風を受けた庭先の植物たちも、ゆっくりではあるけれど、確かに再生を重ねている。
日々彩りを豊かにしていくハイビスカスやシロツメクサを眺めていると、とても励まされる。
今日も、自分の歩幅で進んでいかなくては。

表面をざっと磨き上げ、次の工程へ向けて準備を整えた。
いよいよ削り出し作業が始まる前に、庭先で深呼吸を。
ふたつのリングがぴたりと重なり合うと、何故か嬉しい。

作業台の上にプラチナリングを置き、いよいよ作業に取り掛かることにした。
用意したものは、目の粗い鉄工ヤスリと細かいものを一本ずつ。リングに目印となるラインを描く罫書きペンと定規、あとはルーペくらいだ。
造形作業では、0.01mm単位で寸法を確かめながら進めていく。
もしかすると、意外に思われるかもしれない。
彼女の1.8mm幅。彼の2.0mm幅。
細身のリングを、お揃いのシルエットになるように、思い切りよく削り出していく。
片側を一周、そして反対側を一周削り出す。
角度を変えて、もう一周。
同じリズムで、手を止めることなく。
角ばっていたプラチナリングにやわらかな丸みが現れるまで、何度もタッチを重ねた。
やがて、丸みを帯びた表面に、少しずつ光が巡り始める。
その“流れ”をときおり確かめながら、感覚を途切れさせないように手を進めていく。
おふたりとともに思い描いてきたリングの姿が、いま、手の中で形になりつつある。
生まれ始めた小さな息吹を、このまま大切に育んでいきたいと思った。
ここまでくると、リングに描いたガイドラインは消え、あとは手の感覚に造形の核心を委ねることになる。
これはいつも不思議に思うことなのだが、人の手から生まれるほんのわずかな揺らぎのようなものに、わたしたちはどうしようもなく惹かれてしまう。
ひとつひとつ違う個性を宿した花たちが、集まってひとつの景色をつくるように。
ふたつでひとつのリングを作り上げていく。
15分くらいかもしれない。あるいは1時間以上が経ったのだろうか。
気がつけば、ふたつのリングの表面が丸く削り出され、作業台にはプラチナの粉がたくさん散っていた。
おふたりは、これから屋久島を訪れる機会も多くなりそうとのこと。
細身のシルエットを保ちながらも、アウトドアで過ごす時間も安心できるよう、ほんの少しだけボリュームを加え、リングに安定感を与えた。
シンプルでプレーンなシルエットなので、メンテナンス性も高いと思う。
日々の暮らしの中で、時間そのものが装飾となり、きっと深い味わいが育まれていくだろう。
なんだか少し先の未来が見えてきたような気がして、心を躍らせながら、紙やすりと精密ヤスリを用意した。
ここで道具を変えて、表面をよりスムーズに整えていくことになる。
相変わらず、細やかな作業が続くのだが、案外、こうした繰り返しがとても好きだったりもする。
ようやくここで、作業も半ばを過ぎたといったところだ。

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