
削り出しの作業を大方終えたところで、その手触りを確かめるために、彼のリングを自分の指に合わせてみた。
手に伝わってくるプラチナの確かな質量が心地よい。
とても繊細なシルエットではあるけれど、大地とつながるような頼もしさがあるのは、たっぷりと地金を使って仕立てているからだろう。
すっきり細身のプラチナリング。
ずっとつけていたくなる1本だなと、夏の陽光を浴びたシダの葉のそばで眺めながら、しみじみと思った。
実のところ、わたし自身もシンプルですっきりとしたデザインのものが大好きで、毎日身につけるものは特に、手触りや着け心地を大切にしている。
たとえば服などでは、着ていて気持ちいいと思えるものばかりを、つい繰り返し選んでしまうのだ。
何十年もの時間を共にする結婚指輪なら、なおさら身近な存在になるに違いない。
「普段、装飾品をつける機会がないもので」と、デザインの相談をしている際に彼がそう言ってくれたことをよく覚えている。
植物のように、ここにあることが自然で、親密に感じられる存在ならどうだろう。
そのようなおふたりのリングの姿を思い描きながら、日々作業机に向かっている。

それにしても、一度形を整えたものに大きな力を加えることは、なかなか勇気がいるものだ。
アウトラインをじっくりと確かめたあと、次の工程へ進むことにした。
思い切りよく、新しい扉を開くように。
リングを鉄の枠にあて、添え木と木槌で叩きながら、緩やかなカーブをつけていく。
こうすると、リングの中に、なめらかな“流れ”が生まれるのだ。
リズミカルなラインが、繊細なリングに力強さを与えてくれる。
そして実際に、叩くたびにプラチナも硬くなっていく。
少しずつ、少しずつ。
コンコン、コンコン。

作業がひと段落したところで、ようやくアトリエから出てみることにした。
暑い夏の散歩は、早朝や夕暮れ時に限る。
夜明けにはオレンジ色に染まる雲を見たし、日暮れ前には、海から空へと広がるグラデーションを眺めることができた。
日も短くなってきたが、出会う色彩は毎日新しい。
スイカやパッションフルーツも本当に美味しいけれど、梨やさつまいもも楽しみすぎる。
ハイビスカスはずっと元気で、そろそろ彼岸花も。
暮らしの中で出会う何気ない喜びを分かち合える誰かがそばにいると、日々はあたたかな時間に包まれるのだろうと思う。

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