アトリエ近隣のエリアに、わたしたちの暮らしを静かに見守る山がある。
その少し尖ったフォルムを、わたしはいつも、アトリエの窓から、何気なく眺めているのだけれど、
その山は見る場所や角度によって、雰囲気や表情が大きく変わるのが面白い。
「ここからの眺めも、なかなかですな」とか、「やっぱり、うちから見える山が、一番綺麗だわ」と言い合ったりするのも、屋久島流の楽しみなのかもしれない。
お二人は、アトリエのすぐご近所に暮らしているのです。
雨の季節を迎えた屋久島の日々を、分かち合うようにして、結婚指輪を作っています。
想像もしていなかった喜びに出会えることが稀にあるけれど、
同じ屋久島に暮らすお二人に結婚指輪をお作りできることは、まさに島から授かった贈り物のように思える。
島を大好きになって、ここに暮らすことを選んだという、親しみ深さがある。
そこに、やわらかで心地の良い繋がりを感じながら。
さて、今日も作っている。
彼が残したフォルムの形跡を辿るように、彼女のリングにヤスリをかけていく。
側面から表面へ。そして一周がなめらかに繋がるように、ゆっくりと削り出していく。
二つのリングは同じデザインではあるけれど、サイズはもちろん、厚みにもほんのわずかな違いを設けてある。
お揃いとはいえ、それぞれの時間やお仕事を持つお二人だ。日々の暮らしに寄り添うように、ふたつのリングを仕上げていきたい。
そして、大まかな削り出しを終えると、ヤスリを目の細かいものに持ち替え、また同じタッチを、同じ順番で、静かになぞっていく。
そこには、取り立てて目立つような動きはないかもしれない、
けれど、手の中のリングには、確かにダイナミックな変化が起きている。
ゆっくりと、シンプルに。まるで植物のように進んでいく制作のリズムが、とても好きだ。
夕暮れが近くなってきたので、作業の手を少し止めて、アトリエから坂道を登り、短い散歩に出かけた。
ツユクサをチェックしにいく予定だったけど、シダの葉がふわふわと佇んでいるのが目に入り、ここで立ち止まる。
この間まで、くるくると巻いた小さな若葉だったのに!
こんなにも生き生きと躍動しているのだから、植物たちの歩みはすごい。
そのしなやかさの奥にある力強さに励まされながら、指輪作りの次の工程のことを思いめぐらせていた。