屋久島サウスのアトリエです。
少し寒い日。雨上がり。朝の空気がいつもより張り詰めている。
冬のアトリエはとても静かで猫と郵便配達くらいしか通りがかりそうにない。
今年の最初にお二人の結婚指輪を作り始めた。
いつものように、波がある時には海に出かけて、そうでない時は早い時間から作業机に向かう。
彼女のピンクゴールドがひと段落をして、今は彼のプラチナリングの造形作業を始めている。
すっきりと軽やかに、柔らかなスクエアシェイプ。
結婚指輪なのでデザインはもちろんお揃いである。
けれども、サイズの大きい彼のリングは彼女のリングよりもほんの少しだけボリュームと強度を与えてお作りする。
それでもこれまで作ってきたスクエアシェイプのデザインよりもできるだけ厚みを抑えつつ仕上げるので、彼女と同じ軽やかに出来上がるはずだ。
「できるだけ厚みを抑えたスタイルが理想的です」というのがお二人揃っての想いだったからだ。
素材はプラチナとピンクゴールドなのでメンテナンスも特に必要ない。使ううちにやがて体の一部のようになる。
スクエアシェイプのリングは普遍的でシンプルなデザインであるようにも思う、しかし、お二人の暮らしだったり大切な想いから生まれる細部の構造がリングをどれだけ特別にしてくれるかということを、わたしたちは知っているのだ。
内側に刻んだ刻印や左手の薬指に感じる程よい金属の重みががわたしたちを幸せにしてくれることを。
彼のリングも手作業でコツコツと造形を進めている。
鉄鋼ヤスリを使って大きく削り始めてからそろそろ丸一日になる。
今日はスイスの時計職人が使っている精密ヤスリを片手に表面をつるりと均一にするところまでいけた。
細部を整える大切な所なので、急ぐ必要はない。
ルーペを覗きながらただただゆっくりと時間をかけて手を動かす。
彼の手の大きさをイメージしながら、つけた時に彼女のリングとぴたりお揃いに感じられるように心がける。
料理を作る時と同じ要領だ。
満足度が同じになるように、その時の心持ちや人それぞれにフィットするボリュームをリングにも与えておく。
そうすれば、毎日の付け心地が快適になる。
指輪作りの間には冬らしい晴れの日もあったが、山際には星空を望む事ができた。
夜が深くなり窓の向こうを眺めると、最初はうっすらとだけれど徐々にたくさんの星が見え始めて、これは凄いのでは!と驚いてしまう。不意に感動が訪れるのもいつものことだ。
海のある南東側にはオリオン座をはじめとする冬の大三角が見えて、山々の向こう側には北極星が輝いている。きっとお二人も同じ空を眺めている。
彼のプラチナと彼女のピンクゴールドをぴたりと重ね合わせてみる。
リング幅はぴたりと同じ。
西陽を受けて輝くリングは夜空に浮かぶ丸いひかりのようにも見える。
そして、お二人と抱いたイメージをうまく形にする事ができてほっと一息ついているわたしがいる。
秋のアトリエでご一緒して始まった指輪作りから新しいスクエアシェイプのデザインが生まれたかもしれない。
完成まであと少しといったところだ。
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