夜の間に強くスコールが降り続いた。
朝の庭先はモワッとした、南国独特の湿度にお覆われていて、ところどころにツユクサが花を咲かせている。
久しぶりのブルーに嬉しくなって、これから削り出し作業を始めるリングを手に、しばらくの間その小さな花々を眺めていた。
ハイビスカスでできた生垣の合間を抜けて届き始めた陽光を受けて、シャンパンゴールドが小さくて強い煌めきを放っていた。
屋久島の夏とシャンパンゴールドの色彩に癒されながら、お二人の結婚指輪を作っています。
お二人から最初のお便りをいただいてから、ちょうど3ヶ月ほどになるだろうか。
デザインの相談を重ねたり、お二人と一緒に育んできたイメージが少しずつ形になっていく。
指輪が出来ていくまでの時間も楽しいオーダーメイドである。
考えてみると、作業時間が占める割合はとても小さい。
マラソンで例えると、競技場に入ったラストスパートのようなものであるのかもしれない。
そう思うと、今こうして作業机に向かい、施している一つ一つのタッチがいっそう大切に思えてくる。
作業の前には、花を眺めて心を静かにしておく。
夏の雫をひとつ。
こうやって時々雨も降っていただきたい。
さて、アトリエでは彼のリングの表面を鉄鋼ヤスリを使って丸く削り落とした。
指あたり柔らかな丸いラインだ。
側面には大きく平面を残し、ボリュームを保ちながら仕上げていく。
リング幅は2.0mmと細身のスタイルなので、できる限り強度を上げていかなくてはならない。
お二人のリングはサイズ違いでぴたりと同じデザインなので、
彼のリングの造形作業がある程度ひと段落したところで、次は彼女のリングに同じタッチを重ねていく。
そのバトンタッチのタイミングに、時々こうしてリングを重ね合わせて、造形の変遷を眺めるのが好きだ。
ここまでは思い切りよく削り出すことができたように思う。
手の中に、印象が鮮明なうちに彼女のリングづくりを進めていこう。
まるで幼馴染みみたいな親密さを感じる2本のリングだなと、微笑ましく思いながら、次のタッチの数々を、頭の中に思い描いていた。