
おふたりの結婚指輪は、水をモチーフに作り進めているのだけど、それは、水そのものの動きや手触りだったりするし、自然の中を巡る、大きな流れだったりもする。
水をめぐる、結婚指輪作り
雨が降り、川が流れ、海へと注がれていく。
やがて太陽が昇り、空には大きな虹がかかる。
植物たちはそのリズムに呼吸を重ねるようにして、静かに育まれてゆく。
山と海に囲まれた島の暮らしの中で、
水をめぐる時間が流れていることを、確かに感じることができる。
いくつものリズムが重なり合い、どこか楽しげに響き合いながら、季節を織りなしてゆく。
作業机に向かい、鉄鋼ヤスリを片手に、いまリングに刻み込んでいるのは、そのような時間そのものなのかもしれない。
無数の面を重ね合わせるようにして、なめらかなカーブを作り出していく。
まるで刹那が集まり、永遠を形作るように。

屋久島サウスに、久しぶりのまとまった雨が降り始めたのは、朝食を終え、コーヒーを作って、その日の制作を始めようとした頃だった。
雨が降り、庭先にハイビスカスが咲き始めると、空気の中に熱帯の気配が満ちてくる。
もうそろそろ暑くなってきそうだな、と少し身構えながらも、どこか胸が高鳴ってくる。
赤やオレンジ、白のハイビスカス、プルメリア、モンステラの大きな葉。
南国の色彩に包まれるこの場所の、ゆったりとした時間の流れがとても好きだ。

2本のプラチナリングは、同じ2.3mm幅で仕立てている。
表面を巡るラインを、同じリズムで削り出した。
まだ荒削りではあるが、こうして並べてみると、
そこには芽生え始めた小さな息吹のようなものを見てとれた。
それぞれの音を持ちながら、ひとつのリズムを静かに奏でているように、親密な響きが生まれつつある。
眺める角度によって、プラチナリングの表情が移ろいでゆく。
おふたりとわたしが、ともに生み出していくものは、
自由に島を巡りゆく水にも似た、ひとつの永遠なのかもしれない。

ついこの間までの冬を思い出させるような冷たい雨が上がると、
またあたたかい朝がやってきた。
いつもの場所に虹がかかったので、近くのホテルで山から海へと渡る光を眺めてから、アトリエに戻り、制作を始めることにした。
気がつけば、わたし自身もまた、島のリズムの一部であるように感じられ、なんだか嬉しくなる。
リングの内側は丸く柔らかな面に整え、アウトラインに大きなカーブを与えると、作業もいよいよ佳境へと入っていく。
光沢仕上げのベースとなる質感を、しっかりと磨き上げていかなくてはならない。
雨上がりの重たい湿度を心地よく感じながら、これから施すタッチのイメージを、とても細やかに思い描いていた。
