
春の瑞々しい香りが立ち込めている。
朝、目を覚まして窓を開け放つと、重たい湿度がふわりと部屋の中まで入り込んでくる。
山肌にぽつりぽつりと灯り始めた新緑が眩しい。
一年ぶりにこの感覚を味わいながら、懐かしい友人に再会したときのような、やさしく穏やかな気持ちに包まれていた。

シダの葉のくるくるに出会うと、今年もまた新しい時間が始まったのだと、明るい気持ちが満ちてくる。
庭先でプラチナを手に取り、これから始まる指輪作りのイメージを整えているてと、また厚い雲が空を覆い尽くしてきた。
強い風と短い雨を繰り返しながら、少しずつ熱帯の気配を帯びてゆくのも、この季節ならではのリズムだ。
これから夏へ向かう島は、いきいきと鼓動を強めていく。
その風に耳を澄ませながら、おふたりの結婚指輪を作り進めていく。
それは、月が満ちていくような、とても素敵な時間のように思えた。

アトリエに戻り、まずはプラチナを酸素トーチの炎で焼きなました。
柔らかくなったところで、芯金にあてながらハンマーで叩き、くるりと丸く導いていく。
コンコンコンと、はるか昔から変わらない音色がアトリエに響き渡る。
彼のリングを丸くしたのち、続いて彼女のリングを。
それぞれの厚みに合わせて、ほんのわずかに力加減を変えながら、同じタッチを重ねていく。
これから先は、すべての工程をこのリズムで、交互に進めていくことになる。
まだ始まったばかりではあるけれど、おふたりとともに思い描いてきたリングの姿が、手の中で少しずつ輪郭を帯びていく。
まずは最初の一歩だ。

一日の作業を終え、海の見える丘まで車を走らせた。
日もずいぶんと長くなってきた。
彼女が暮らす沖縄では、もうハイビスカスが咲き始めているだろうか。
彼は神奈川で、今ごろ桜を眺めているのかもしれない。
水平線が、ゆっくりとオレンジ色に染まってゆく。
屋久島とおふたりを結ぶ時間が、季節のめぐりの中で、静かに紡がれていく。
いつもあたたかな気持ちで、一緒に歩いてくれて、ありがとう。
扉は開かれ、光が溢れ始めました。
喜びを分かち合いましょう。
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